【校閲ダヨリ】 vol. 40 住所と言葉は似ている
みなさまおつかれさまです。
校閲の仕事の半分以上は、何らかの事実確認です。
人名、歴史的な事実、社歴、洋服の展開サイズ・色、万年筆の値段や機能、ヘアカラー剤の品名・色名など、制作誌面に記載のある確認可能な事項は隅々まで調べます。
それらの中で、目にしない日はないといってよいものが「住所」です。
今回は、そんな住所において「入っていたりなかったり」する「字」のお話をしたいと思います。
さて、「字」ですが、これをなんと読むか、みなさんはご存じですか?
「じ」ではありません。
「あざ」と読み、中学校で習う常用読みです。
なじみ深い方もいれば、はじめて見たという方もいらっしゃるかも知れません。
これは、明治時代の市町村合併以降に付された、それ以前の「村」を指す意味合いの名詞です。
なので、合併前が城下町由来の大きな都市だった場所などでは目にすることはありません。
地図業界大手のZENRINによると
とあり、「大字」と「字(小字)」の2種類のくくりがあることがわかります。
一例を示すと、このような感じで現在も住所に残っています。
長野県長野市大字南長野字幅下
この例では、「南長野」がそもそもは「南長野村」、「幅下」は「南長野村の幅下集落」であることがわかるのです。
(現在はそのまま町名、地区名として残っている例が多いようです)
ZENRINによると、
とありますが、「大字」がそもそもないといった沖縄県宜野湾市のような土地もあります。
「沖縄県宜野湾市字宇地泊」という場所は現在も存在していますが、ここには大字が入る隙はありません。
宜野湾市観光振興協会によると
とあり、宜野湾市には、大字が発生しませんでした。
さて、一般には「『大字』『字』は省略可能か?」という点で議論になることが多いようです。
この問いについて考えるときは、「郵便番号」がひとつポイントになってきます。
郵便番号は、1968年以降、全国を10地域に分けた上で、大局・中継局(最初の3ケタ)から末端局(ハイフン後2ケタ)まで5つの数字で管理をしていましたが、1998年2月から、それらに宛先の町名まで識別可能な2ケタの数字が加わり7つのナンバーで表すようになりました。
つまり、簡潔にいうと「郵便番号でカバーしきれない範囲は住所として記載が必須」ということになるわけです。
日本郵便は、省略可能な範囲をこのように示しています。
加えて、「大字」「字」が入っている住所にかんしてはこうあります。
なるほど、わかった。でも、私が言いたい「省略」はそういうことじゃない。
わかっております。たとえば「長野県長野市大字南長野字幅下」を「長野県長野市 南長野 幅下」とするといった省略のことですよね。
これにかんしては、信頼に足る資料を見つけることができなかったので、日本郵便に直接問い合わせてみました。
ご対応してくださったYさんによると
ということでした。
要するに、「長野県長野市大字南長野字幅下」を「長野県長野市 南長野 幅下」としてしまうと「届く可能性はあるが、届かない可能性もゼロではない」ということになります。
「届かない可能性もゼロではない」という点が重要です。
このあたりのニュアンスは、言葉と非常に近いものを感じます。
伝わる人には伝わるが、伝わらない可能性もゼロではない。
話は変わりますが、京都市は、住所表記が独特なことで有名です。
「京都府京都市中京区山本町御幸町通押小路上る000番地」
観光客はこれをMAPアプリなどに入力したりして目的地を目指すのでしょうが、通りの名前が頭に入っている京都に縁深い人であれば、住所を見ただけで番地はわからずとも近くまでたどり着けるといいます。
この京都の例などは、方言と非常に近い印象を受けます。
言葉も住所も、人が密接にかかわるもの。似通って当然なのかもしれませんね。
ちなみに、校閲作業でチェックする住所は基本的に「その物件主が公開している公式情報」を正として、大字・字の記載があれば省かずすべて載せるように赤字を入れます。
そもそものお店の公開情報に誤植があるとすべてが無に帰してしまいますので、公式ウェブサイトなどを立ち上げるご予定のある方はセルフチェックをよろしくお願いいたします。
それでは、また次回。
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