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椎谷哲夫さんの寝言のような「皇女」案擁護論

デイリー新潮「女性宮家に代わって浮上した『皇女』案をどう捉えるべきなのか」と題した記事

 デイリー新潮に「女性宮家に代わって浮上した『皇女』案をどう捉えるべきなのか」と題した椎谷哲夫さんの記事が発信されています。

 記事の中で椎谷哲夫さんは、「皇女」案が「天皇退位特例法の付帯決議を無視するものだ」とする批判に対し、認識不足であり国会の付帯決議を無視するものでもないと主張し、次のように述べています。

 その理由を述べよう。平成24(2012)年10月、当時の野田佳彦内閣(民主党・国民新党)は、皇族数の減少による皇室のご活動の維持困難に備えた対応策をまとめた「皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理」を発表した。
 論点整理にあたっては、国民の中に多様な意見があることを理由に、「皇位継承制度の在り方の問題に影響しないものであること」を前提条件として検討がなされた。その結果、「女性皇族が一般男性と婚姻後も皇族の身分を保持しうることとする制度改正について検討を進めるべきであると考える」とするいわゆる女性宮家創設案のほかに、「女性皇族に皇族の身分を離れた後も引き続き皇室活動の支援に関わっていただけるような仕組みを設けることは可能と考えられ、併せて検討を進めることが必要である」とする内容が併記されたのである。
 この論点整理を元に野田内閣は「女性宮家」創設を推し進める皇室典範改正をめざした(同年末の総選挙で敗れて総辞職したため立ち消え)が、有識者のヒアリングによる論点整理は「両論併記」だったのだ。

 そして「皇女」案について次のように述べています。

 皇女案は、これまで述べてきたように、野田政権下での論点整理を土台に、二つの付帯決議の内の「女性宮家の創設等」について検討した結果であり、皇族の減少に伴う皇室の御活動を維持するための制度として打ち出されたものだ。それでは、なぜ女性宮家が否定されたのか。

 これは、椎谷哲夫さんが付帯決議について何もわかっていないことがよくわかります。平成29年6月1日に衆議院で、平成29年6月7日に参議院でなされた天皇の退位等に関する皇室典範特例法案の付帯決議は次のように定められています。

一 政府は、安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について、皇族方の御年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題であることに鑑み、本法施行後速やかに、皇族方の御事情等を踏まえ、全体として整合性が取れるよう検討を行い、その結果を、速やかに国会に報告すること。
二 一の報告を受けた場合においては、国会は、安定的な皇位継承を確保するための方策について、「立法府の総意」が取りまとめられるよう検討を行うものとすること。
三 政府は、本法施行に伴い元号を改める場合においては、改元に伴って国民生活に支障が生ずることがないようにするとともに、本法施行に関連するその他の各般の措置の実施に当たっては、広く国民の理解が得られるものとなるよう、万全の配慮を行うこと。
右決議する

 この付帯決議の第1項として定められたのが安定的な皇位継承を確保するための諸問題を解決するための検討を行うというもので、その解決策として女性宮家の創設等が例として挙げられています。しかしながら、椎谷哲夫氏はこの第1項を安定的な皇位継承とともに皇族の減少に伴う皇室の御活動を維持するという二つの課題を掲げたものであると解釈しているのです。この椎谷哲夫さんは中日新聞東京本社編集局で取材し記事を書き、編集局編集委員にまで出世した記者のはずですが、それほど文章の読み書きに携わった経歴を持つ椎谷哲夫さんがこの付帯決議を日本語としてちゃんと読んだり、書かれてもいない皇族の減少に伴う皇室の御活動を維持する課題などが見えてきたりするのか非常に不思議です。

 皇女案は、これまで述べてきたように、野田政権下での論点整理を土台に、二つの付帯決議の内の「女性宮家の創設等」について検討した結果であり、皇族の減少に伴う皇室の御活動を維持するための制度として打ち出されたものだ。それでは、なぜ女性宮家が否定されたのか。

つっこみどころ満載の椎谷哲夫さんの女性宮家制度批判

 椎谷哲夫さんは女性宮家について次のように述べて批判します。

 女性宮家は一般男性との婚姻を前提としており、皇室の歴史にない制度であって皇室という存在の質的変化をもたらすということを先に確認しておきたい。具体的には、配偶者やその子をどう遇するかという極めて難しい問題が生じてくる。野田内閣で行われた論点整理でも、以下のようにさまざまな意見が噴出し、その混乱ぶりが浮き彫りになった。
【1】配偶者に限って、一代限りで准皇族的な待遇を付与する
【2】配偶者や子についても皇族に準じた扱いをする
【3】配偶者や子についても皇族とする
【4】将来的な女系天皇を危惧するなら皇族としないことでもやむを得ない
【5】配偶者や子は皇族としない方が良い
【6】配偶者や子について民間人とした場合、戸籍、姓、家計などの面で不自然な家族となる
 これらの各案については、俗な言い方をすると、突っ込みどころ満載である。准皇族的な待遇を一代限りで付与した場合、その次はどうするのか? 先に女性当主が亡くなった場合はどうするのか、当主を引き継ぐのか? その子はどういう身分になるのか? 女性皇族には姓はないが、皇族とならない配偶者や子は結婚前の姓を名乗るのか? その方たちにも敬称を使うのか? 配偶者をいきなり皇族にしたり、皇族に準じた扱いをすることに果たして国民が納得するのか?――。女性宮家創設を口にする人たちは、この疑問にどう答えるのか。女性宮家を軽々に口にすることがいかに無責任なことかがわかるというものだろう。

 しかしながら、一般女性が男性皇族と婚姻することは現在の皇室の形となった明治以降も何度もなされており、単に皇族に入るのが一般女性から一般男性に代わるだけのことです。女性宮家当主である女性皇族の配偶者として一般男性が皇位継承候補者ではない皇族として入り、その子が生まれながらの皇族となるわけで何も問題は生じません。
 更にいえば、現行の皇室典範に改正しなければ、ほぼ同世代である天皇陛下、皇嗣殿下の次の世代は悠仁親王殿下しか皇位継承候補者はおらず、悠仁親王殿下が生涯独身であることを選択したり、妃となる女性が現れなかったり、たとえ妃となる女性婚姻したとしても男子が誕生しなければ皇室はなくなります。そして、婚姻すれば女性皇族が皇籍から離れる現行の皇室典範の下では、安定的な皇位継承について将来にわたる議論に任せるために皇室を現状維持しようとすれば、女性宮家を創設して女性皇族が皇族として残る仕組みを作らなければ不可能です。
 そして、眞子内親王殿下に婚約の話が持ち上がっており、仮に眞子内親王殿下が婚姻により皇籍を離れた後に妹である佳子内親王殿下が婚姻後も女性宮家の当主として皇族として残ることになるとタイミングの差で姉妹の運命が変わるという不可思議な話になってしまいます。皇位の安定的な継承のために検討する時間は、すぐに女性宮家を創設しなければまったくないといってよいのです。仮に椎谷哲夫さんの解釈のとおり付帯決議が安定的な皇位継承と女性宮家を含めた皇族の御活動を維持するための制度創設の二つを課題として掲げているとしても、喫緊の課題である前者の課題を検討せずにいくらでも時間が残されている後者の課題の検討を進めようとするのは、年末の大掃除の時に大掃除をほったらかして目についた書籍の読書をするようなものであるといってもよいと思います。