インド洋で石を採った
10月上旬から11月までの1ヶ月の間、調査船に乗ってインド洋に行ってきた。
「マコト君さぁ、一緒に船乗らない?」
今年の春、大学院の先生と雑談していたときに、すごい軽いノリで誘われた。ちょっとその辺のご飯屋さん食べに行かない?みたいなテンションで。
改めてちゃんと説明をしてもらうと、
・他の大学と協力して、海底にある石を採ってくる計画がある
・期間は1ヶ月、場所はインド洋
・石を採るための装置の準備や、石を記録するために人手がいる
・院生の自分に取って、勉強になる場面が多くあるはず
・そういうわけで、一緒に船に乗ってくれない?
という話だった。
最初に聞いたときの感想は「面白そう!でも期間長ぇ!しかも遠い!船酔い怖い!」って感じ。
自分は小さい時は、飛行機に乗るたびに嘔吐するくらい乗り物に弱かった。今でも新幹線やバスの中では本を読めないくらいに酔いやすい。
そんな自分にとって、船なんて恐怖の対象でしかない。迷いながらも、おびえながらも、先生からの後押しもとい口車もあり、乗船することになった。
人生何が起こるか分からないもんだな。
船での生活は非常に充実した、楽しいものだった。
綺麗な景色に出会い、人との出会いにも恵まれ、新鮮な経験をたくさんできた。まぁ、ちゃんと船酔いして数日間寝込んでたけど。
船の中での生活について詳しく書いて共有したいが、それはまた次の機会に。今回は自分と岩石のことについて書きたい。
自分は別に岩石は好きじゃなかった。岩石のために船に乗ったくせに。
そもそも何で大学院で岩石の研究をしているのかというと、きっかけは大学入試で失敗したからだった。
子供のときの自分は宇宙の話が大好きだった。図書室で星の図鑑を借りてきたり、週末に近所の博物館のプラネタリウムに入り浸るような子供。
高校生になってからも宇宙への興味は消えず、大学は天文を学べるところにしようと進路を決めた。
そうして、とある大学の理学部を受験。天文学コースがある物理専攻が第1志望だった。結果、物理専攻は不合格。その代わり、隕石を見られるからというだけの理由で第2志望にしていた地学専攻で合格した。
そのときは岩石についての知識なんて無かったし、興味も無かった。「地学で受かったけど…。地学って何やるの?石とか地層とか?」何も分からないし、不安でいっぱいだった。浪人して物理専攻を受験し直すことも考えたが、親や先生からの後押しもありそのまま地学専攻で入学することに決めた。
そうして4年半ほど地学を学んできたが、授業も研究も楽しかった。ただ、博物館に展示されているような鉱物とか岩石には相変わらず興味は無かった。研究室でもパソコンでデータを眺めている時間の方が好きで、岩石の実物の方はどうでもいいやって思ってた。先生が読んだら泣くかな。
それは船の上でも変わらず。先生たちや他の学生が、採れたばかりの岩石を囲んで議論している中で、自分はその輪の外で他の作業をしていることが多かった。だって、見ても何が何だかわからないし。何が面白いのかも分からないし。「やっぱり自分は岩石好きじゃないんだな」って思いながら生活をしていた。
そんなある日、ちょうど海底から上がってきたばかりの1つの岩石が目についた。その日採れたのは玄武岩。岩石の中でもありふれたもので、キラキラした結晶とかもあまりない、ただの黒い石。お世辞にも綺麗とは言えないような石。ただ、目についたその石には、節理という規則的な割れ目が出来ていた。しかも、教科書に載っているような典型的な、とても整った形をしているものだった。
「綺麗だな…」
その石を眺めながら、思わず、ぽろっと口からそんな言葉がこぼれていた。
自分の口から岩石に対して、それも珍しくもない玄武岩に対して、綺麗という言葉が出てきたことが信じられなかった。「今、本当に自分が言った?近くに立っていた他の学生じゃなくて?本当に?」
今までずっと岩石に強い興味は持ってなかったし、大学で地学を学んでもそれは変わっていないと思っていた。でも、今玄武岩を見て綺麗だと感じた自分がいた。
「あぁ、なんだ。ちゃんと岩石好きなんじゃん」
なんだかおかしくて、うれしくて、1人でニヤニヤしながらその岩石を見つめ続けていた。自分の事に気づかせてくれてありがとう。
受験に落ちたことがきっかけで地学を志した自分が、いつのまにか岩石が好きになっているなんて想像もしていなかった。多分、高校生のときの自分にこのことを話しても信じられないだろうなと思う。船に乗ってインド洋に行くよ!って話の方が信じられるかも。
本当に、人生って何が起こるか分からないものだな。