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認知症の祖父

私が小学生のころ、大好きな祖父は認知症になりました。
当時は「痴呆症」と呼ばれていましたが、今思えばそれはとても酷い呼び方です。
祖父は老人病院に入院し、私は母に連れられて毎日面会に行っていました。

その病院は母の友人が経営しており、幼い私はそこで働く看護師さんたちにあこがれを抱くようになりました。
「将来は優しい看護婦さんになるんだ!」と心に強く誓ったのを覚えています。そんな憧れもあり、看護師さんのケアはいつも熱心に観察していました。

しかし、病院での日々は私の想像とはかけ離れたもので、当時はまだ布おむつが使われており、時間ごとにしか交換されません。そのため、尿で臀部がふやけ、硬いマットレスと相まって褥瘡ができやすい環境もちろん例外もなく祖父は大きな褥瘡を作っていました。おむつの中は便と尿まみれで、発生した褥瘡はどんどん悪化していきました。

ある日、おむつ交換の時間に偶然居合わせた私達は祖父のお尻に青あざがたくさんあるのを目にします。言葉を話せなくなっていた祖父に代わり、隣のベッドにいたおじいさんが衝撃的な事実を教えてくれました。看護師の中には、おむつ交換の際に「汚い!臭い!」と言いながら、患者のお尻をつねったり叩いたりする者がいるというのです。

この事実を知った母も私も、悲しみと怒りで胸が張り裂けそうでした。しかし、病院の経営者が母の親友だったため、この問題を追及することはできませんでした。そうこうしているうちに、最悪の事態が起こってしまいました。

ある夕方、いつものように母と病院を訪れると、例の看護師が血相を変えて祖父の病室から飛び出してきました。「窒息した」という言葉が、廊下に響き渡りました。

後で隣のおじいさんから聞いた話によると、その看護師が食事介助の際に祖父に無理やりご飯を食べさせ、窒息させてしまったのだそうです。
「なんでもっと早く食べないの!ほら早く食べ!」と言っていたそうです。

幼かった私は、その後の出来事をはっきりと覚えていません。ただ、一つだけ心に深く刻まれたのは、なぜ憧れの職業である看護師が、大切なおじいちゃんを虐待し、最後には命を奪ってしまったのか、という疑問でした。

この悲しい経験は、私の人生を大きく変えました。「絶対に看護師になる」という決意を固めるきっかけにもなったのです。


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