
『鳥の巻』工作舎編
珍しく今年最後の本の紹介を迷っていたら、大晦日になってしまったが、江戸博物文庫の『鳥の巻』にした。この本は中澤健矢に選書してもらった一冊である。今、松岡正剛がプロデュースした伝説の書店空間「松丸本舗」が期間限定で復活しているけれども、中澤健矢はその書棚づくりにも才能を遺憾なく発揮したひとりである。
帯の「翼を持った宝石たち」という文字群とそのしたで振り返る鳥の絵も絶品であるが、そのカバー裏には、
日本には好奇心と美意識、
アートとサイエンスが
一体となっていた幸福な時代があった。
工芸品や絵画制作のためのスケッチ、
あるいは博物図鑑に描かれた
江戸の鳥たちはまた、
異界や異国の象徴でもある。
とある。もはや本文にいくまえに惚れる一冊だ。
ところで、私と中澤健矢の出会いは「松丸本舗」ではなく、横浜市金沢区の「桜湯」というところであった。家内がおもしろいイベントスペースができたと言うから、閉店ギリギリに足を運んだ。実はあまり気乗りせずに伺ったのだけれども、その書棚を眺めた途端、私が珍しく前のめりになって、
「この書棚は松岡正剛関係の方がつくられたのですか」
と近くにいらした職員に訊ねたのがはじまりであった。人嫌いな私が自分から話しかけたものだから、家内が目を丸くしていた。その職員も「よく本の並びを見ただけで、わかりますね」と言いながら、快く対応してくださり、オーナーはじめその書棚づくりに関わった面々を紹介していただいたのである。そのひとりに中澤健矢がいたのだ。
よく一冊の本が人生を変えてくれた云々の話を耳にするが、正確に云うならば、それは違う。実際は、その本の並びが人を羽ばたかせるのである。その意味では、中澤健矢は天才であるとおもう。
さて、前置きが長くなったけれども、ここまで読み進めてくださった方々に贈りたい話は、本の並びを変えるように、身の編み方を変えることで、人は羽ばたけるというものになる。せっかく鳥の本を紹介したので、人の羽の話としたい。
鳥の飛び方は、飛行機のそれとまったく異なる。前者は生命的で、後者は機械的である。生命である限り、共鳴できる。我が国の文化は、花鳥風月との共鳴で建立されてきたと云っても過言ではない。そのなかの鳥と共鳴できたとき、人は羽ばたくことができるのだ。
ところで、人が飛翔するとき、身の何処が動くのだろうか。
多くの方は天使のイメージも相まって、肩胛骨を動かして、飛翔されようとする。しかし、個人的に私は肩胛骨で物の見方が変わることはあっても、飛翔することはない。逆に申せば、肩胛骨で飛ぼうとするから、人は今いる場から飛び去れないのである。
では、鳥を視たとき、我が身は何処と共鳴するのか。
いつも心温まるサポートをまことにありがとうございます。 頂戴しましたサポートは、農福連携ならびに読書文化の普及に使わせていただいています。