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わたしの本棚

私が棚に並べるのは、古風な日本人からたまたま譲りうけた古書ばかりで、元の持ち主が亡くなった方も少なくない。要は私の本棚で一時期お預かりしているだけに過ぎない。そのような絶版ばかり…
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記事一覧

『経済の誕生』小松和彦・栗本慎一郎著 | 工作舎

 わずか二日であったが、松丸本舗が復活するというので、懐かしき本を求めた。そのうちの一冊が本書で、名著が故にひとに幾冊かあげてしまっていて、久しく手元になかった。  早速、北陸新幹線の共に読んでいると、異界からやってくるものが、いかに富へと化けたのかがよくわかった。近代日本は劣悪である。なぜ、劣悪かと問われれば、ひとえに一般化がひどいということにつきる。これは松丸本舗の傍らで行われていた松岡正剛校長の追突の会でも話題にあがっていたと思う。  では、どうすれば多様性を纏える

『賢人の視点』パウロ・コエーリョ著 飯島英治訳 | サンマーク出版

 コエーリョの『アルケミスト』は170ヶ国以上で読まれ、3億2千万部を突破した旅の物語になる。こう記すと、賞か何かをとって世界的ベストセラーになったような印象を受けるが、当初は900部程度しか売れず、重版されることはなかったという。世界を変えた物語になったのは、そのあとのコエーリョの努力によることが大きい。  本書はコエーリョの物語ではなく、随筆になる。アルケミストもよく旅したが、コエーリョもまたよく旅をした作家であった。そして、世界各国から文章を引用する。  或るイタリ

『「幸せなお産」が日本を変える』吉村正 | 講談社+α文庫

 怒り狂ったおじいちゃんが赤裸々に綴った文章が好きだ。  さらに云うならば、日本人なんだから日本に還れという方向性も好みだ。  したがって、本書はかなり贔屓にしたい一冊である。  絶版なところも尚、佳い。  著者の吉村先生は、どこか『自然農法』の福岡正信を思わせる。そういえば、あのおじいちゃんも近代日本の科学農法に怒り狂っていた。吉村先生も云うなれば、自然出産を薦めている。  吉村先生は妊婦に薪割や散歩を積極的にさせて、兎に角、身体を動かすことを推奨された方だ。賛否両論

『トリックスターの系譜』ルイス・ハイド著 法政大学出版局

 まみーたこと大澤真美とのご縁は、農業帰りに、ふと葉山の海辺で話そうとなったのがきっかけであった。前後の脈略はあまり覚えていないが、おそらく読書のすすめの小川貴史から最初にその名前を聞いて、またまったく異なるコミュニティの方から、話が合いそうなひとがいるといったような流れで、偶然が重なったからだとおもう。兎に角、初対面であった。ドミニカ共和国に住んでいらしたときに、まみーたと呼ばれていたから、そう名乗っているということである。  対話に重きを置かれている女性なので、初対面で

『街の書店が消えてゆく』月刊「創」編集部

 過日は私が理事長を務めるNPO法人読書普及協会の総会であった。冒頭、私は次のようなことを会員の皆様にお話しした。  2024年3月時点で無書店市町村が27.7%に至った。書店が1軒しかない市町村を含めれば、47.4%になる。無論、閉店が決まった街の書店が地域住民やファンの声に後押しされ、店が存続したという事例は他の業界より多い。それだけ本の大切さを皆が本能的に理会しているのかもしれないが、本屋の灯は今にも消えそうな気配はますます濃くなっている。それもそのはずで、書店に平均

『日本語原學』林甕臣著  | 講談社

 親の偉業を子が編集した本は少なからずあるが、群を抜いて絶品なのが本書であろう。古書店でであったなら、ぜひお持ち帰りしていただきたい一冊である。なぜなら、ほんのアジールに入れたい最たる本であり、日本を読み解く上で、必須の名著になるからだ。  父の名は甕臣と書いて、「みかふみ」と読む。甕は水や酒を貯蔵した大きなかめを指す。今、「読む」と書いたが、昔は「呼び見(む)る」と云った。「読む」を身につけるのに、旧字体は「讀」で、それを白川靜がどう視たなどとやっていても、一生わからない

『枕頭問題集』ルイス•キャロル著 | 朝日出版社

 『枕頭問題集』は文字通り、ルイス•キャロルが枕頭で解いた数學の問題ばかりを集めた一冊になる。原書は本名で書かれている。  アリスのキャロルが数學?と思われるかもしれないが、彼は数學から言語學まで視えてたひとであった。そのキャロルの鬼才ぶりも極めて魅力的なものの、本書に限っては訳者の才能が凄まじく、キャロルが霞んで映る。個人的には、これまで読んできた中でダントツの訳者あとがきなのだ。このようなわけで、表題をキャロルの本にした。  さて、パスカル、キャロル、津田一郎と時を経

『パースの哲学について本当のことを知りたい人のために』コーネリス・ドヴァ―ル著 | 勁草書房

 出版業界は連日、お通夜の情態であるが、過日は珍しく書店に足を運んで、心が明るくなった。懐かしい良書が幾冊も復刊されており、「書物復権」の帯とともに平積みされていたからである。十の出版社が読者からのリクエストを基に、共同復刊する。このような姿勢を眺めていると、まだまだ日本も棄てたものではないと感じる。私は以下の三冊を求めた。 『パンセ』 パスカル著 白水社 『虚構世界の存在論』 三浦俊彦著 勁草書房 『パースの哲学について本当のことを知りたい人のために』 コーネリス・ドヴァ

『偶然と必然』J・モノ― | みすず書房

『数学する身体』森田真生 | 新潮社

 森田真生は海外に行ける力がありながら、あえて日本で暮らす日本人のひとりになる。私の周辺のおもしろい日本人は等しく海外で暮らしているが、今あえて日本で暮らす日本人の方がもっとおもしろいと近年は感じている。  さて、今朝は「Thank you」と靜かにつぶやきたい氣持ちもするので、この本の39頁から引用する。  この身体化はインドーアラビア数字だからできる部分が多い。  例えば、39×33を「ひ、ふ、み、よ、い、む、な、や、こ、と」と筆算することはなかなか難しい。ところが、

『禅という名の日本丸』山田奨治著 | 弘文堂

 昔、作務衣で或る航空会社に乗った際、空の景色を窓から眺めていると、客室乗務員が手紙を渡してきた。他の客にバレぬよう、靜かに最後尾まで来て欲しいとのことであった。暇だったので、足を運ぶと、客室乗務員たちがお茶をしており、その輪に加われという。茶や禅の話を尋ねられ、適当に答えていたら、紅茶とケーキにありつけた。似非和尚ぶりも、ここに極まれりだ。  ところで今、第三の哲學が西欧では流行っており、日本の禅も人類の存亡を握る叡智としてさらに注目されている。西欧が東洋にようやく追いつ

『ハレとケの超民俗学』高橋秀元・松岡正剛 | 工作舎

 プラネタリーブックスは私が生まれる半年前、『存在から存在学へ』(松岡正剛)が出版され、今回の『ハレとケの超民俗学』はシリーズ2冊目になる。もちろん生まれたばかりで読書はまだできないから、それから三十年後、古書店に足を運んでは、宇宙の欠片を集めてきた。おそらく異様なプレミアがついている本以外は、ほぼ凡て集まったのではないか。せっかくだから、欠けたまま私の宇宙はとっておくことにする。  ちなみに、現在はプラネタリーブックスのうえに、或る動物の頭骨がのっている。「或る」などと氣

『タフティー•ザ•プリーステス』ヴィジム•ぜランド | SBクリエイティブ

 この手の「引き寄せの法則」を私のような中年男性が讀んでいると、或る種の恥ずかしさを感じるので、この本は珍しく電子書籍で購入し、表紙を隱した。購買理由は、表紙の赤面した女性に惹かれたのもあるが、マトリックスからの脱却には「身体性」が必要であろうという視点が書かれてあったからだ。久方ぶりに世間の流行本を確認しておきたかった。ちなみに、本書ではそびらの「三つ編」が願望を実現できると表現されている。  三つ編の話をするまえに、「身体」を文字通り「身」と「体」に分けておく必要がある

『ジャッケンドフの思想』米山三明 | 開拓社

1、駅へ走った。 2、駅へ走っていった。  あなたにとって、上の1と2はどちらが違和感がないだろうか。海外の方には説明しにくい微妙な言語感覺ではあるものの、大概は2の方がホッとする。それは、日本語の「走る」に「移動」の概念が含まれていないからと視たのが米山三明先生になる。  ちなみに私は博士後期課程まで約十年、指導教授をしていただいている。今も成長はないが、当時はより変わった院生であった。よく永いこと破門もせずに、色々とご指導くださったと思う。初めて米山先生の授業「言語學