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高堂つぶやき集。
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2024年1月の記事一覧

結婚前、家人がよく花の写真を撮っていた時期があった。木漏れ日がよくはいる家でひとり暮らしをしており、花をもとめては室内でその横顔を眺めている。英語のprofileがもともと「横顔」という意味であったのを識ったのも、その時期のことであった。ひと目惚れはいつも横顔なのかもしれない。

吉祥寺いせやで睡ってゐると、或る夢をみた。その夢は想ひだせば想ひだす程、淡く消ゑゆく類のものであった。もはや断片的な面影すらない。たゞ焼き鳥の匂ひで夢から醒めれば、幾年も睡ったかのやうな妙な氣がした。寝過ごしたかと店を辞し、私は終電のタイムマシンのなかで再び睡りにおちたのである。

アトランティスが沈む際、一部のひとはその高度な文明をまことに惜しんだ。輪廻するにしても結局ひとは百年程度しか生きられぬし、それ以前にまた地球に輪廻するというのも容易ではない。そこで或る者は木に転生し、人を導く道を選んだ。『魔法の森』。私が神社より老木を愛する理由はこの物語にある。

全國に「並木」なる地名は多いが、海岸近くでは松が並べられたケースが散見できる。松ぼっくりは文字通り頭のなかにある松果体によく似ており、私は松を愛でていると、時折自分の脳を覗いているような心地になる。人の脳は松が産んだのだと力説されれば、ついそうなのかと納得してしまいそうである。