
目標志向的介護の共通言語・可視化ツールとしてのプ譜活用方法
この記事の内容は、プロジェクトの表現ツール「プ譜」を「目標志向的介護」に用いる方法について書いています。
目標志向的介護とは、本人の状態や希望などを総合的に勘案し、ある目標を設定してそれを達成することで、より充実した生活・人生を獲得しようとするものです。
介護というと、病気で使えなくなった機能を訓練によって回復したり、車いすなどの福祉用具を使い、できなくなったことをできるようにするといった、「マイナスをゼロにする(元に戻す)」いうイメージがあります。
この点、目標志向的介護とはさらに一歩進めて、「元に戻して何をしたいか?」という将来の目標を患者と設定し、そこから逆算して、その目標を実現するための「活動」ができるようになるための訓練や知識の伝授を行っていきます。
目標志向的介護を知ったのは、大川弥生先生の『「動かない」と人は病む 生活不活発病とは何か』という本でした。その後、関連する『「よくする介護」を実践するためのICFの理解と活用―目標指向的介護に立って』、『新しいリハビリテーション 人間「復権」への挑戦』といった書籍を読み進めるうち、「目標志向的介護」を行うためのツールとして「プ譜」が役に立つのではないかと考えるようになりました。
目標志向的介護について詳しく知りたい方は、書籍を読むことをお勧めしますが、私が関連書籍を通読して大事と感じたことを下記に記載します。
目標志向的介護を行う上での大事なこと
本当のリハビリテーションとは、一人ひとり違う状態や可能性、過去の経歴、その人のもつ好みや価値観を尊重した、その人らしい充実した人生をつくる「オーダーメイド」のもの。
リハビリテーションには患者の主体的参加が必要となる。
目標志向的介護を行うには、デマンド(要望)とニーズ(真の希望)を見分けなければならない。
真の希望が設定されなければ、機能回復訓練をするという手段の目的化を防ぐことができず、最良のプログラム(計画)もつくることができない。
主体的に参加するには「インフォームド・コオペレーション」が欠かせない。
「インフォームド・コオペレーション(自己決定権の発揮)」とは、専門的な見地から、実現可能な複数の選択肢を提示して、利用者・患者に十分な説明をしていきながら、利用者・患者自らにその中の一つを選択(自己決定)してもらうこと。
介護が利用者にとって最良の支援となるためには、「生きることの全体像」という観点に立った「共通言語」を持つことが大事。
どのような目標に向かって、どのようなプログラム(計画)を立てて進めていくのかということがわかれば、介護を支援するチームもより良く、効率的に支援を行うことができる(これが「共通言語」を持つ、ということ)。
利用者に関わっているさまざまな職種との連携と、認識と目標の共有という、真のチームワークを実現するためには「共通言語」が必要。「共通言語」は利用者と専門家の間でも必要。
WHOが発表した「国際生活機能分類(ICF)」の基本的な考え方である「生活機能モデル」では、人が「生きる」こと(生活機能)は、「社会参加」・「生活動作」・「心身機能」の三つのレベルからなる、とする。
社会参加の具体像は生活動作。生活動作はそれぞれさまざまな心身機能から成り立つ。
三つのレベルは、「目的と手段と要素」の関係として捉えることができる。
目的は違った手段でも達成できる。
目的と手段と要素の組み合わせは必ずしも固定的なものではなくて、実はかなりの柔軟性がある。
ある手段が何らかの理由で使えなくなった場合に、そのままならその目的を達成できなくなる。ところが実際にはこれまでとは違った手段や要素に変えることで同じ目的を達成することができる場合が多い。
プ譜が役に立つところ
私が大事だと感じた上述のポイントは大別すると、下記の3つになります。
「本人の真の希望=目標設定を行う」
「生活機能モデルに基づいた、利用者・患者と支援者、支援者間の共通言語をつくる」
「目的と手段を柔軟に組み合わせる」
そして、この3つを忘れず、より良く行うための認知コストを、プ譜が下げることができるのではないかと考えています。
プ譜には基本となるフォーマットがありますが、これを目標志向的介護用にすこしアレンジしたものが下記になります。

このフォーマットは目標志向的介護を行うための要素に下記のように対応しています。

大川先生の書籍では、生活機能モデルを元に「参加」「活動」「心身機能・構造」という分類をしておられます。
勝利条件に「参加目標」。中間目的に「活動目標」。廟算八要素に「心身機能・構造」をあてます。
獲得目標は患者・利用者の「デマンド」。勝利条件は「参加目標」と上述しましたが、「真の希望」という意味も持たせます。
施策には「活動」を行うための「バラエティ(行い方)」をあてます。
以下、プ譜がどのように役立つのかを説明します。
本人の真の希望=目標設定を行う
プ譜は獲得目標と勝利条件という構造をもちます。勝利条件とは目標が実現されたといえる指標・基準のことです。この構造であることによって、与えられた目標に漠然と取り組むことを防ぎ、「プロジェクトで本当に得たいものごとは何か?」を発見することを促します。この構造が、目標志向的介護の「要望(デマンド)」と「真の希望(ニーズ)」を区別するものとして使えると思います。

また、私は与えられた目標から勝利条件を導いていくための「問いかけパターン」を研究しているのですが、この問いかけパターンも真の希望を発見するためのツールとして活用できるものと思います。
生活機能モデルに基づいた、利用者・患者と支援者、支援者間の共通言語をつくる
生活機能モデルによると、「活動」の目標は、その人の将来の「参加」のあり方(目標)から決まってきます。プ譜では、勝利条件欄に置いた参加目標から、それを実現するために必要となる活動の種類(レパートリー)を中間目的欄に書き出していきます。

目標志向的介護の「活動」の種類には「する活動(将来している活動)」、「している活動(実行状況)」、「できる活動」がありますが、ここには「する活動」を、「未来に参加目標を実現しているとするなら、この活動の要素をこのようにしているだろう」という状態を、できるだけ具体的に書くと良いのではないかと考えます。
そして、書き出した「活動」の中の優先順位を決めていきます。優先順位は取り組む順に下から上に並べ替えていくとわかりやすいです。
目的と手段を柔軟に組み合わせる
目標志向的介護では、ひとつの活動のレパートリーを行う方法は複数あり、目的と手段と要素の組み合わせは必ずしも固定的なものではなく、かなりの柔軟性があるということでした。
このことを表現するために、中間目的に「活動のレパートリー」、施策に「活動のバラエティ」というふうに分けて書きます。

プ譜の記入例
具体例を示すために『新しいリハビリテーション 人間「復権」への挑戦』で紹介されていた事例をプ譜にプロットしてみます。

中田さんは脳梗塞で左半身まひになりました。左手のまひは軽く、物を押さえるぐらいのことは十分できるようになるという見立てです。
左足がまひしているが、装具や杖を使えば大丈夫とのこと。これを廟算八要素の「心身の状態」に書きます。
勝利条件=参加目標はハッキリしており、「自宅で書道教室を開く」が設定されています。
この書道教室を開くための「活動」を中間目的に記入します。大きくくくれば「字を書く練習ができている」。一つひとつの活動に分解すると、「筆で字を書くことができている」「紙をおさえることができている」「座ることができている」となります。
一般的に、「正座で、左手で紙を押さえて書く」というのはスタンダードな「固定的」な方法です。しかし、この「固定」されている活動を「状態」と「手段」に分けると、大川先生が書籍で指摘されている「目的は違った手段でも達成できる」を視覚的に表現することができます。

「座ることができている」という状態を実現するための一般的な手段である「畳に正座する」は中田さんにとって難しいため、この手段は不採用です。
別の手段として「いすとテーブルを使う(に座る)」というものが選択されます。また、この活動のバラエティは、心身機能などの個別状況を勘案して考案・選択をすることになります。
このように、「将来の目標」と「現実の条件」を往還しながら、中田さんの願いを叶えるオーダーメイドのプログラムを視覚的につくりあげていくことができます。
インフォームド・コオペレーションも実現する
ここまで、「本人の真の希望=目標設定を行う」、「生活機能モデルに基づいた、利用者・患者と支援者、支援者間の共通言語をつくる」、「目的と手段を柔軟に組み合わせる」の3つを、プ譜で表現する方法を解説してきました。これらのプロセスを経ていくことは、専門的な見地から、実現可能な複数の選択肢を提示して、利用者・患者に十分な説明をしていきながら、利用者・患者自らにその中の一つを選択(自己決定)してもらう「インフォームド・コオペレーション(自己決定権の発揮)」につながると考えます。
一人ひとり異なる、人生・生活の目標を実現するためのオーダーメイドのプログラムづくりは、たいへんな認知作業なはずです。私はまだ介護サービスを受けたことがなく、大川先生が書いておられる内容を十分理解できていない点が多々あるかもしれないのですが、プ譜はこの認知コストを下げることで、目標志向的介護の実現を支援することができるのではないかと考え、プ譜の活用方法をまとめてみた次第です。
もし、目標志向的介護の共通言語づくり、可視化にプ譜を活用してみたいとお考えいただけるようでしたら、下記のフォームよりお気軽にご連絡ください。
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