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【読書記録】神さまのビオトープ

凪良ゆうさんの本と言えば、「流浪の月」や「わたしの美しい庭」、「汝、星のごとく」が有名でしょう。私はまだそちらは読了していないのですが、今回読んだこの本がよかったので読んでみたいなって思いました。

最近、連作短編集を読んでいます。その流れで手にとったこの本。

今回のお話は、夫に先立たれた美術先生のうる波が主人公。彼女には死んだはずの夫(鹿野くん)が見えるのです。これは夢か現実か。幻も知れないと不安に思いながらも、彼女は幽霊の夫との暮らしを普通に営み始めます。周りの人には奇妙に思われながらも。そんな中、大学の後輩カップルのいざこざ、ロボットと少年、小4と恋愛ドラマ、ストーカー疑惑の正体、人には言えない夫婦など様々な人たちの愛のカタチに触れていきます。
その中で、彼女は彼女なりの幸せを見つけていくという物語です。

短編の中では、私は「マタ会オウネ」というロボットと少年のお話がおもしろかったです。ここに出てくるロボットは今の技術だと非現実的だからロボット工学とか詳しい人が読むとツッコミどころ満載かもしれませんが、私は気にしないのでいいのです。小説ですからね。

世の中を冷静に見れる子どもたちの中には、大人たちの言葉が意味不明で理解不能って思うことはあると思います。子ども心に納得いっていないって感じが。だからこそ、大人の私はそうならないように子どもたちへの関わり方を気をつけようって思えます。子どもを子どもとして扱わず、1人の人間として対等に会話をしようと。人は、目下の者に対する態度が一番本心が出やすいといいます。

「前に学校の先生から『ロボットじゃない、本当のお友達を作ってほしい』って言われて、本当のお友達ってなんですかって問い返したんだって。先生は答えたんだけど、その都度矛盾や疑問点が湧いて、一問一答を繰り返していくうちに……」
「答えに詰まってしまった?」
「そう」

神さまのビオトープ p111

学校制度の中の友達づくりっていつの時代も悩むテーマ。勧めていること自体は悪気なくても、本人たちにとってはほっといてくれっていうことは多々あると思います。ただ、人間は矛盾を抱えた生き物と気づくことも成長なのでしょう。

――大人になっても、わからないことがたくさんあるんだね。
――ダッタラ、ドウシテ大人ニナルノカナ?
――お酒が飲めるからって、お父さんが言ってたよ。
――ソレハ冗談ダネ。
――もちろん冗談だよ。

神さまのビオトープ p112

ここから、いろいろあって(ネタバレになるから書きませんが)

――人間とかロボットとか幽霊とか、いろんな人たちが一緒にいられる世界を作る。

神さまのビオトープ p145

この小説の短編の中では、一番希望が描かれているお話でした。私はだから安心して読めたのかもしれません。誰かが亡くなり、残された者は悩み葛藤したり、すれ違いから傷つけあったりそういうのはお話の中だとしてもちょっと苦しいから。それでも他の短編たちも読みごたえはあります。自分の現実とかけ離れているほど、なるほどねってすんなり腑に落ちることもあるから。逆に、共感する人もいるかもしれません。そういうことがあるのが読書のいい所。

 わたしたちはすでに終わっていて、変化はなく、未来もなく、なにも作り出さない。
 海の果てにある白い海岸が続く島と等しく、わたしと鹿野くんが向かい合って食事をしているここにも、なにもない。この家は、世界という名前のケーキから切り取られた無価値なピースだ。ひどく悲しい。さびしい。けれど、わたしは幸せだ。

神さまのビオトープ p285

これを読んでくれたあなたの世界は、あなたが作るのでしょう。
色々な人がそれぞれの世界を作っていて、たまにこうして読者のあなたと私がたった一瞬交わる。それだけ。
それでも、ここまで読んでくれてありがとうございました。

よかったらまた、遊びに来てください。



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