【インタビュー(1)】平野成美さん(多文化コーディネーター) 〜YSCグローバル・スクールの教室から
*マスクをしていない写真は全てコロナ禍以前に撮影
【日常編】
住友商事株式会社が2019年の創立100周年を機に立ち上げた社会貢献活動プログラム、「100SEED」(ワンハンドレッド シード)。SDGsの目標4「Quality Education (質の高い教育をみんなに)」を共通テーマに、世界各地の住友商事グループ社員が中長期的な教育課題の解決に取り組んでいます。
日本における活動のうち、公益財団法人 日本国際交流センター(JCIE)との提携による「多文化共生社会を目指す教育支援」で、住友商事プロボノチームと当スクールの協働が始まりました。
2020年10月より、社内公募による有志のメンバーの皆さんに、海外ルーツの子ども・若者への学習支援やスクール運営基盤の強化にご協力いただいています。メンバーは半年ごとに交代してゆきます。
その一環として、当スクールの先生・コーディネーターへのインタビュー企画を連載中。
多言語・多文化な現場で日々奮闘する先生やコーディネーターたちの姿を、プロボノチームの皆さんの視点から伝えてゆきます。
今回はインタビュー第二弾。スクールで多文化コーディネーターとして活躍する平野成美さん(以下、「なるみさん」)をインタビューします。
(第一弾はこちら:海外ルーツの子ども支える 多文化コーディネーター アマドゥ理和子さん)
今回のインタビュアーの3人はこのプロボノ活動が初めてのボランティア。始めたころは「海外にルーツを持つ子どもたち」という言葉も知らないくらいでした。
※新型コロナウイルスの感染状況を鑑み、本インタビューはオンラインで実施しました。
2021年7月某日、YSCグローバル・スクールの教室から参加したなるみさん。教室ではちょうど休み時間で、後ろでは元気な子どもの声や掃除機をかける音が鳴り響いていました。
ー多文化コーディネーターという肩書ですが、どんなお仕事をされているんですか?
YSCグローバル・スクールは、東京都福生市と足立区で、海外ルーツの子ども・若者向けに日本語教育や学習支援を行っています。その中での多文化コーディネーターの仕事って幅広くて、「何でも屋」という感じでしょうか。
保護者とのコミュニケーション、小中学校との連携、高校進学支援などなど。これに加えて、いちばん大切なのは子どもたちとのコミュニケーションで、休み時間などは積極的に話しかけるようにしています。
「Wi-Fiが切れちゃった」と言われれば復旧対応。「自販機のコーラがなくなった」と言われたら補充手配したり、「ケガしたんだけど絆創膏ない?」と言われて探したり。「何でも屋」だけに、毎日とても忙しいです。
ー学校との連携って、どんなことをするんですか?
まず前提として、当スクールに通う子どもたちは大きく2つに分けられます。
ひとつは朝から15時頃まで、平日に毎日通っている子どもたち。彼ら彼女らはこれから日本の学校に通う準備をしている段階だったり、既に学籍はあるものの[注:小中学校に就学し、名簿に名前がある状態]、さまざまな事情で学校の代わりに当スクールに通っていたりします。
もうひとつは夕方から夜にかけて通っている子どもたちで、放課後の塾や居場所として利用しています。
昼間通ってくる子どもたちは小・中学校で出席扱いにしてもらうために、定期的に学校に学習状況を報告する必要があります。
放課後の子どもたちは学校への連絡は不要なんですが、先生と連絡を取りたいなと思う場面が時々あります。
たとえば、難しすぎる宿題が出ている場合。子どもたちは宿題が出たら頑張ってやろうとするんですけど、来日して間もない場合など、日本語がハードルとなって苦労してしまうこともあります。
そんなときに学校に対して、「今は日本語を勉強させたいので、当スクールで日本語の課題をやることで宿題の代わりにしてもらえませんか?」と交渉したりもします。
学校の先生方は本当に多忙で、したいと思っていてもきめ細やかな対応が難しいことも少なくないので、学校の先生の想いも踏まえて、当スクールで学校と一緒に海外ルーツの子どもをサポートするような感じですね。
ー学校との役割分担が難しそうですね。
最初に集中的に日本語を教えるところは日本語教育の専門家が担い、勉強を教えるプロである学校へタスキを繋ぐという形が理想的ですね。
日本語の日常会話がわかるまで2〜3年、学習に使う日本語を理解するには7年ほどかかると言われています。
お互いの得意分野を活かして子どもたちの居場所を広げられるよう、日々内外とコミュニケーションを図っています。
ーそれにしても、コーディネーターという仕事は、交渉力が求められますね。
YSCグローバル・スクールに通うことで、学校を出席扱いにしてくれる制度があるんですか?
NPOやフリースクールでの学びを出席扱いにするかどうかは、校長先生のご判断にかかっているんです。2019年10月に文科省が全国に通知した「不登校児童生徒への支援の在り方について」という指針に、校長の裁量で民間団体での授業も出席扱いにできる旨が書かれています。
これは画期的なことなんですが、まだあまり知られていないようです。
当スクールでは2010年から出席として扱っていただけるように学校と調整を行っていて、ほとんどの場合で許可していただいています。ただ、やはりなかなかご理解いただけない場合もゼロではないため、校長先生個人の判断に委ねるのではなく、どの地域や学校でも同じ対応ができるよう、国の制度としてもう少し整備されたら良いのになと思います。
―スクールに通う生徒は何名ぐらいですか?
約1ヶ月ごとの学期制で、学期ごとに入れかわりがあるのですが、スクール全体で年間100人から120人くらいですね。
以前は、教室の広さに対して人数が増えすぎたりすると「椅子や机が足りないからちょっと待って!」とお待たせてしてしまうこともありました。今はオンライン授業も導入したので、柔軟に対応できるようになっています。
―スクールで勉強し、日本の学校に通える日本語レベルになってきた子どものアフターフォローはどのようにされていますか?
様々なケースがあります。最初から週5日で学校に通い始める子もいれば、週2〜3日は日本の学校に通って、残りを当スクールで日中勉強するというケースもあります。
日本の学校に通いながら、放課後クラスに引き続き参加する子もいます。
いったん当スクールを離れてもできる限り学校や保護者と繋がっていられるよう、「何かあればいつでも相談してください」という姿勢でいます。
学校に通い始めてから、改めて言葉の壁を実感したり、いじめられてしまったり、日本の学校の仕組みに馴染めなかったりして、スクールに戻ってくることも珍しくありません。
―子どもたちにじっくりと寄り添って、日本で生活しやすくなるように導いているんですね。YSCグローバル・スクールの居心地が良すぎると、なかなか日本の学校に戻れなくなりますね(笑)。
そうですね。ただ、いちど日本での居場所がここにあると感じられれば、日本の学校で孤独を感じても、当スクールやここで出会った仲間の存在が支えになってくれるのではないかなと思っています。
当スクールで出会う子どもたちの多くが自分の意志でなく親の都合で来日し、これからずっと日本で暮らす予定です。また、日本生まれだったり、幼少時に来日したりしている子どもたちもいます。
そのような子たちは日本語が第一言語であったり、保護者が外国出身であっても日本での生活しか経験していない、または日本以外の国での生活があまり記憶にないということもあります。
一方で、どれくらいの期間、日本にいることになるか見通しが立たず、どこまで本気で日本語を勉強したらいいのかわからないまま日々過ごしている子どもたちも中にはいます。それぞれの複雑な背景を持つ子どもたちの気持ちに寄り添うことも、当スクールの大きな役割かなと思っています。
なるみさんはじめ、実際に現場で働くスタッフの方々が、各ご家庭の気持ちや方針を優先し、SOSがあればどんなパターンでも受け入れる体制を整えていることが、 YSCグローバル・スクールの行動指針である”海外ルーツの子どもたちが「ここにいてもいい」と感じられる居場所づくり”の実現に繋がるのだと感じました。
次回はなるみさんの過去に迫る立志編です。お楽しみに!
構成・執筆:住友商事プロボノチーム
編集:青少年自立援助センター YSCグローバル・スクール
写真:森佑一
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