とあるところでのこと。本を読む時間に手持無沙汰にしてる1年生の子に本を選んだ。1冊目も(だるまちゃんとかみなりちゃん)2冊目(かいじゅうたちのいるところ)も首を振られ、こちらを見せたら、首を縦に振った。まず第一関門突破。
読んだことある?と聞くとないと答える。じゃ読むよ・・・・。
日曜日の朝に、なんにもすることがないひろしくんは穴を掘り始める。
掘り始めると、お母さんや妹やお友達がやってくる。そのたびに答えるひろしくんの「まあね」が好きだ。まるで先日紹介した「ちがうね」と同じ。似たような言葉に意味がたくさんある。きっと読み手が変われば、理解が変わり、返答の口答する時の音の雰囲気が変わるかも。
さて、一人の女の子に読んでいたのだけど、前の席の子も振り返り、隣の席の子は耳をダンボにして聞いている。耳がおーきくなってきたのが目に見えるようだった。離れた席の子もわたしの後ろに来て、もうひとり男の子も読んでほしい絵本を手にして聞いている。
1回目のお父さん登場の時には、耳で聴いてた子も立って後ろから見ていた。穴を掘っているだけのひろしくんのどんどん深くなっている様子に、「これじゃ出られない。どうするの?」と誰かがつぶやく。でも出られるんだなと知っているけど、わたしはとにかく知らんぷりして読みすすめる。
彼らの表情を見るに、どこまで掘るんだろうという疑問とただ掘っている様子に驚いている。
堀った穴に座り込んでいるひろしくんが感じている土のいい匂いと静けさ。まるで自分たちも穴の中にいるように感じる不思議。
「これはぼくのあなだ」
なんだろう。この達成感。自分が堀ったわけでもないし、ひろしくんでもないのに、一緒に掘ったかのような満足な空気が流れ、穴から見える空が目の前に拡がるような錯覚。ぽかぽかと春のような陽気もそうさせたのだろうか。(大寒なのに)
そうしてひろしくんは穴から出る。その時の動作の言葉のセンスがいい。種明かしはしたくないからぜひ読んで。
それってどういうこと?と聞いてきたので、わたしは動作をやって見せた。なるほど、にっこり。これは後でやってみよう、みたいなにっこり。
読み終えた後、3冊目にしてこれにすると言ってくれた女の子は、表紙を大事なものでも扱うようにじっと見つめて、1ページ、1ページとゆっくり捲り始めた。まるで穴を一緒に掘ってるかのように。声をかけるのも憚れて見守っていたのだけど、「これ次読んで!」という声で、まるで魔法が解けた時やシャボン玉の割れる時の小さな「パチン」という音が聞こえたかのように、空気が割れた。
その隙に、隣にいた子が「わたし一人でもっかい読みたい!読んでもいい?」と言われ、小さく「うん」と答えて手渡す彼女。
さて、本を貸してしまった子はどうするのかなと見ていると、それでもしばらくはポ~っとして、別の子の「これ読んで」と持ってきた本をいっしょに聞き始めた。
題名は言わないけど、あまりにも本が違いすぎて、集中が続かない。穴に気を取られていることがわかる。子どもって正直だな。でも自分が読んでと言ったものだから、読まなくていいといいと言えない可愛げがある。
息子が小1の時に保育園にでっかい穴を友達4人で掘った。声をかけても気づかない。どんどん、どんどん掘っていく。
ひろしくんのように座り込んで空を見てはいなかったけど、すごい掘りようで、もういいやと思うところまで掘ると突然ピタリと止めた。
はい、そのあともちろんこってり怒られて、4人で穴を埋めて、母たちで仕上げて、園にも謝りましたとさ。