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ダンス・フレンド -児童書-

 自分のことって、なかなか話せないことが大人の今だってあるのに、それがまだ11歳だとしたら、上手に話せっこない。おんなじ状況をわたしが子どもの時になっていたら、どうしたかな。と考えながら読んでました。

ダンス・フレンド
カミラ・チェスター 
櫛田 理絵 訳
早川 世詩男 絵
小峰書店
2024.10.25

 主人公は11歳の男の子レオ。トランポリンを暑さしのぎにしているレオに初対面で屈託なく話しかけてきた女の子リカとの出会い、はじまりともいっていいのですが、このシーンがとてもよかったです。これからこの二人がどうなるのかとわくわくしました。
 このあと、読み進めていくうちに、レオが場面かんもく症といって、家族とは話すことができても、そうでない人との会話は難しくなる困難さを抱えてることを知りました。とはいえ、頭の中では話したいことも思うことも溢れそうなほど持っています。でも言葉を出すことができません。
 学校にいるクラスメイトと違って、リカはレオに話しかけてはくるけれど、レオが返事をしないことはさして気にしてはいません。なんとなく感じるのは、リカは一方的に話しているからレオが返事をしなくても平気なのではなく、レオから声はでなくても、すこーしずつレオが頭で思った会話が空気に溶け込んでいるんじゃなかろうか、と読み手のわたしも感じるぐらいだから、リカもきっと受け止めてるから”音の言葉”はなくても気にしていないだろうなと感じます。
 物語は夏休み突入と同時に2つのことを中心に話が進んでいきます。レオがリカにだけは本当のことを知っていてほしいと考えて、丁寧にていねいに言葉を選んでリカに手紙を書くのですが、この手紙を真ん中に色々起こるのがまず一つ目。
 レオは夏休みにダンス教室に通うのですが(おっきな夢を持っています)、そこにはリカもいて喜びますが、苦手なクラスメイトも参加すると知ります。なんで苦手かを知ると、うぇと…なりますが、”知らない”ってある意味罪深いと思いました。さて、このダンス教室で夏の終わりには発表会がありますが、今年は全員でひとつを作り上げるスタイルではなく、それぞれで見せると決まった、これが二つ目。

 表紙を開いてから閉じるまで、大丈夫だよ!と声をレオとリカにかけながら読んでいたように思います。
 ちょうど先日の勉強会(自分の子どもだけでなく、自分の半径1.5メートルを支援できる大人になりたい)で、場面かんもく症の話が出ました。勉強不足できちんとわかっていませんでしたが、症例として一部だとしても、少し知ることができました。児童書のいいところは、新聞のニュースで数行で終わるような事柄やこういったなかなかわからないことが、物語のなかに組み込まれてわかりやすくなっていること。

 このダンス・フレンドは、子どもが子どもなりに静かな(でも強い)決心で前に進む瞬間があることを教えてくれました。なにかをしないといけない時、そのことをすべきことと大人が判断して誘導してもテコでも動かない子を見たことがあります。それと同時に、長い時間じっとしていても、ある瞬間に動き始めることがあります。わたしが我が子のその瞬間に立ち会った時、動かない息子にじれったさを感じました。遠く離れて見守ってただけですが、もしかしたら彼の目にはわたしにじらされてると映っていたかもしれません。記憶はきれいごとに塗り替えられやすいので、たしかにわたしは空気でじらしていたかもしれません。そんなことはないと言ってしまうけれど…。
 いまならわかります。一言も話さないけど、彼は頭の中でたくさん自分自身とお喋りをしていたんだと。決めてからの行動は早いものでした。今もその美しさは脳裏に焼きついています。
 ちなみに、レオの兄ダニーと姉のソフィが最高にクール。レオがリカにしたことも、あの曲も!ダンスも!
 ぜひ大人も読んでください。そして子どもたちに手渡してください。
 小学高学年~


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