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【オリジナル幻想小説】神無月回廊 #1-1

はじめに

神無月も半ばを過ぎましたね。
ということで、兒玉弓の著作『神無月回廊』の冒頭部分を公開させていただきます。


この作品は、2024年3月に発行し、文学フリマで販売しているものです。
気になった方がおられましたら、紙の本を手に取ってくださると幸いです。
装丁がとってもきれいな本になっております。
                「木星堂」海
                   


第一話 祝子はふりこ






「十月は静か」
 日名鳥ひなとり神社で祝子はふりこの職を務める元白猫が、境内に続く石段を上りながらひとりごとを言う。
 神社の上り口に群生している彼岸花の朱色が、冷たく美しい十月の朝だ。
 彼岸花の花弁だか雌蕊だか雄蕊だかガクだかの先端がくるりくるりとなっているのが数多祝子を見送る。

「口から伸びたストローを蜜を求め天に向けるは朱色の蝶の群れ」
 そうなると蝶たちの求める蜜は、と見上げた空は高くただ蒼い。祝子は元白猫らしく視力があまり良くないが、祭神にして宮司でもある連翹(れんぎょう)なら、昼間の星も楽々見えるのだろうかとふと考えながら、短い石段を上って鳥居をくぐった。

「ハフリコさん、十月は静かだなんて冗談でしょ。お隣さんはまあうるさいうるさい。朝から夕方まで毎日お祭り状態じゃないの」
 祝子のひとりごとに茶々を入れたのは、鳥居をくぐった先に延びる石畳の参道の両脇に置かれた狛犬の形の方だ。対に置かれたうん形の方は黙っている。


 はふりあるいは祝子はふりこの職は日々の雑務から祭祀の舞手まで多岐にわたり、外部との交渉も多い為、いつのまにか元白猫はこの神社の「顔」となっていた。長い年月人間に変化しているので、怪しまれないように数人の外見を使い分けているが、呼び名は語呂の良さもあってか、大抵職名の「ハフリコさん」だ。
「おはよう。静かなのは、うちの境内が、ってことよ」
「はあ」
 この狛犬は先日、出入りの石屋が置いていったものだ。日名鳥神社に狛犬が置かれていないのに今更ながら気付いたのか、いらないと即答したのに、「試しに置いてみるだけでいいから」と強引に台座ごと据え付けて帰ったのだ。造形が南国風味の狛犬は人気の新作との触れ込みだったが、今度石屋が来たらお喋りな狛犬はいりませんと持って帰ってもらうつもりだ。
 狛犬阿氏はまだ何やら喋っていたが、忙しいふりをして祝子は本殿へと足を速める。

 本殿に直接入る為に拝殿を回り込んだところで、金木犀の香りに気付いた。
 隣の寺の境内にある金木犀の巨木が、今年も無事花を付けたようだ。


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