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上海アートシーン 2021年1月(1)


2015年末に移り住んできてから5年が経ち、その間に新しい現代美術の場所も増えた。昨年までは日本での仕事が多くほとんど心が日本にあったので、上海では多くて7割程度しか見に行けてなかった(反省…)。でも今年はできるだけ見に行こうと思っている。

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M50(エムフィフティ)のMは莫干山路(モーガンシャンルー)の頭文字。かつてはここが上海のギャラリーの中心地だったので、業界内では「あそこね」と分かる人も多いと思う。現在、中心地は西岸地区に移っているが、それでもM50には今もいくつか見るべきギャラリーがある。その一つ、Vanguard Galleryで、16日からFrank Wang Yefengの展示が始まった。

iphone、卵形のチョコレート、タバコのパック、物干し台といった日常的なものが、アルミの風船のように膨らんでしぼんだり、ぐにゃぐにゃに曲がったりするCGアニメーションと、「ほら、ステレオタイプはみんなが持っているよ ("See...We All Have Stereotypes")」といった警句的な文言がやっぱりアルミの薄いフィルムで包まれたチョコのようにぷっくりした形になって、空中をゆっくり回転するアニメーション。それぞれが明るくゆかいな面持ちで語りかけてきつつも、その実、シニカルだったり、形がものすごく変わって不安な気持ちにさせたり。毎日の生活の中で演出された”楽しい感じ”の、うすっぺらさとか不気味さを「はい、これ!」と差し出されたみたい。

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CAC(Chronus Art Center)では、90年代終わりごろから現代までの、インターネットアート22作品の展示、We=Link: Sideways。これは昨年11月から開催されているのだけど、見逃していた。

インターネットアートは広大なネット空間に構築されるので、地下活動の雰囲気があるなぁと思う。で、その一つひとつがどうなっているのかを理解するのも、暗がりに手を突っ込んで手探りで確かめていくような作業になるので、時間がかかる。正直な心境を言うと、22作品同時に展示とか、やめてほしい(笑)。

しかも選択された説明文のフォントもものすごく読みにくくて・・・。この展示の不親切さはCACでは珍しくなく、結局CACは研究所的な性格のところなんだろうな、と思う。

でもこの「サザビーズで取引された作品の上にオークションでの金額を表示してデリバティブ商品にする」パオロ・シリオの《デリバティブ》という作品もそうだけど、インスタレーションで見て興味を引かれるタイプの作品はやっぱり多いと思った(私は金融に疎いので、なんとなく面白いくらいな感じですが、ふだん投資や取引をしている方は仕組みが重なって面白さがピンとくるかも)。

今回はネットアートならではのメリットがあり、作品はそれぞれネット上で体験することができるので、時間があれば覗いてみてください。

We=Link: Sideways(CAC)の展示風景

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ここ1年くらいで上海きってのおしゃれスポットと化した安福路。人であふれた表通りから275番の小区を入って道なりに行くと、どんづまりの右手にあるのがCapsule Shanghai。イタリア人ギャラリスト、エンリコ・ポラトがとても素敵な個人の邸宅をギャラリー空間に変えている。ここで16日に始まったのがMiranda Fengyuan Zhangの個展、「私たちのいない世界」。ニットで描いた抽象画だ。

確かに、”私たち”のいない情景はものすごく遠い未来のようでもあり、はたまた精神世界を表しているようでもあり、クールで振り切った非人間的景観なのだけれど、テクスチャーがニットなので、温かく、優しく受け止められているような気分にさせる。個人的な空間(家のリビングとか、ベッドルームとか)に落ち着きと深みを与えてくれそう。

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最後は、Huang Zheの個展。まずこの光を当てると七色に輝く素材を先に定着させて、その上に黒い絵具を重ねて、削り出すという手法で絵画作品を作っている。題材は岩山とか岩とか、鉱物だとかを思わせる形象。1984年生まれ、まだ30代後半だけど、作風は極めて洗練されている。迷いがない(迷いがない、という印象は、わりと中国の現代美術家に共通して感じる資質なのだけれど)。

会場の宝龍美術館(宝龙美术馆 バオロン・メイシューグァン、英語はPowerlong Museum)はディベロッパー宝龍集団が建てた大きな美術館。HPはあれど展覧会情報は更新されていないし、ふだんはほとんど観客がいないしで、「大丈夫か・・・?」と思ったりするが、10個ある展示室のうち一つを使って、わりとコンスタントに若手現代美術家の意欲的な展示をしてくれるのは有難い。

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ちなみに上海の展覧会情報は、東京におけるTABのような便利なものが存在せず、各ホームページも更新があったりなかったりなので、もっぱらWeChatで送られてくるヴェニューごとの広報と、WeChatのモーメンツ(友人たちがポストする場所)で拾っている。

Timeoutにも多少の英語情報はある。ただし現代美術ファンには物足りない。

*中国語ではVARTが8割くらいは情報を網羅している。でもヴェニューが増えてきてかなり見にくくなってしまった。そろそろフォーマットを変えた方がいい。



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