金澤 韻

かなざわ こだま:現代美術キュレーター。公立美術館に12年勤務後独立。漫画、ニューメデ…

金澤 韻

かなざわ こだま:現代美術キュレーター。公立美術館に12年勤務後独立。漫画、ニューメディア、地域とアートなど既存の美術の枠組みを超えるものにわりと熱心。2015末〜2023初頭、上海拠点。現在は京都在住。https://kodamakanazawa.com/ja/

マガジン

  • 上海アートシーン

    自分の記事の中から、上海を中心に中国のアートシーンについて書いた記事をまとめています。

  • ロンドン遠吠え通信(2014・15)

    RCAでキュレーティングを学んだ当時の私が、キュレーションにおける文化的差異について考えてみている連載です。

  • イントロダクション

  • 『アートのお値段』に見る ”アートのお仕事”

    映画『アートのお値段』に登場する人々を例にアート業界の仕事について眺めてみています。5回連載。

最近の記事

カンウォン国際トリエンナーレ2024: Ecological Art from Beneathに寄せて

小さき者たちの物語——右往左往しながら生き抜くこと 金澤 韻    アリのトンネルが示すもの アリのトンネルをメタファーにした今年のカンウォン・トリエンナーレのテーマについて聞いたとき、柳幸典の「The World Flag Ant Farm」という作品を思い出しました。私自身が現代美術に初めて興味を持ち始めた頃に出会った、思い出深い作品です。砂で作られた世界中の国旗がパイプで繋がれていて、その中に生きたアリが棲んでいました。アリのトンネル作りによって砂が混じり合い、

    • 横山裕一の芸術:ネオ漫画とニュートラルな絵画、《アースデイ》

      ※ このテキストは、500部限定で制作された横山裕一作品集『アースデイ』(2024年、ANOMALY)に収録されたものです。より多くの方に横山裕一の芸術について知ってもらおうと、横山裕一氏、ANOMALYに了解をいただきここに公開するものです。  (カバー写真:横山裕一《アースデイ》(2024)ANOMALY提供) 【書籍の情報はこちら】 横山裕一の芸術:ネオ漫画とニュートラルな絵画、《アースデイ》 金澤韻(かなざわこだま、現代美術キュレーター) 横山裕一は漫画家で

      • 生土礼賛 (うぶすならいさん)展

        第1章 土の誕生 わたしは土。 わたしは土。太古の昔からこの星にある。実を言うと、この星が生まれるまえからわたしは存在していたんだ。わたしは宇宙に漂う、たくさんのいろんな物質だった。それがぶつかりあって、くっつきあって、星になったんだ。物質たちは溶けて、冷えて、固まって、砕けて、流れて、混ざり合い、積み重なり、大地が生まれた。わたしは命をはぐくむ大きな土台となった。そして命は、最後にまたわたしの中へと還ってくるのだ。 星に住まう者たちと紡いできた、わたしの物語をご覧

        • 生き物としてのうつわ:桑田卓郎の芸術

          ※ このテキストは、桑田卓郎「TEE BOWL」(2021年、KOSAKU KANECHIKA)のレビューで、将来出版される本展カタログに収録されるものです。 『宝石の国』の主人公たちは10代の少年少女のような姿形をした種々の宝石だ。彼らは共に生活し、しゃべり合い、特定の相手に愛着を持ったりする。そんな日常的な風景の傍ら、彼らを狩りに来る者たちとの闘いがあり、物理的な衝撃を受けるとそれぞれの鉱物の性質そのまま、頭も体も無残に砕け散ってしまう。しかし面白いことに、砕け散ったか

        カンウォン国際トリエンナーレ2024: Ecological Art from Beneathに寄せて

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        記事

          アーティスト: Chen Xi (陈熹 / チェン・シー、シー・チェン)

          Chen Xi の作品を初めて見たのは、2018年の春、彼の上海M50のA+Contemporary というギャラリーで彼の個展が開催された時だった。大きな展示空間の壁いっぱいに投影されたアニメーション作品をひと目見て動けなくなって、そのまま1時間くらい見ていたと思う。(トップ画像はその時見た作品、《Sleepwalking Through The Walk Simulators: 歩行指南》より) 短いシークエンスが連なるオムニバスのような映像の中で、美少女?ロボット?動

          アーティスト: Chen Xi (陈熹 / チェン・シー、シー・チェン)

          ロンドン遠吠え通信 Vol.8

          さて、最終回は作品の扱い含め展覧会作りについての差異を書いておきたいと思います。 ロンドンでの展覧会の設営時のこと。すでに予算ギリギリのため、メディアプレイヤーに接続するUSBスティックを節約しようと、シンガポール人のチームメイトがメンバーに私物の供出を呼びかけました。私の持っているものはデータ読み込み時にピカピカ光るので使えないと言ったら、「ぜんぜん問題ないよ、天井近くに置くんだから誰も見ないって!」。 日本の現場ではこういうきちんと準備されていない感じはNG。それに会

          ロンドン遠吠え通信 Vol.8

          ロンドン遠吠え通信 Vol.7

          ロンドン留学中の筆者がキュレーティングにおける文化的差異など考える本連載ですが、筆者はめでたくロイヤル・カレッジ・オブ・アートを卒業しました! というわけで、この連載もラスト2回となりました。 今回は「アーティスト・キュレーター」について。 こちらではキュレーティングにおいて、作る人(作家)と集める人/見せる人(キュレーター)の区別を見直す試みがしばしば行われます。ヘイワード・ギャラリーが主催する巡回展事業として2013年に行われた、イギリス人作家マーク・リッキーの展覧会

          ロンドン遠吠え通信 Vol.7

          ロンドン遠吠え通信 Vol.6

          「この作品の意味は何ですか?」 という質問って困るよねー、と作家に言われて、そうだねーと同情することがこれまで何度かありました。学芸員も作品の「意味」をストレートに聞かれると一瞬固まったりもします。まあ、一般の方はいいとして、ジャーナリストでそういう質問する人はもっと頑張ってくれるといいなと思っていた。留学するまでは。 しかしこっちに来たらこのストレートな質問はデフォルトだったのでした。作家は基本「この作品の意味は何ですか?」「この展示で何を伝えようとしていますか?」と聞

          ロンドン遠吠え通信 Vol.6

          ロンドン遠吠え通信 Vol.5

          ロンドン留学中の筆者がキュレーションにおける文化的差異について考えてみている連載です。 今回は、先月フリーズに出展されたユナイテッド・ブラザーズの作品について書きたいと思います。<このスープ、アンビバレントな味がする?>と題されたこのパフォーマンスは、ユナイテッド・ブラザーズ(荒川医・智雄)によるもので、彼らのお母さんが福島で採れた野菜を使ってスープを作り、来場者にふるまうというもの。
最初に断っておかなければならないのは、私はフリーズには行ったものの結局時間を外してしまっ

          ロンドン遠吠え通信 Vol.5

          ロンドン遠吠え通信 Vol.4

          ロンドン留学中の著者がキュレーションにおける文化的差異について考えてみている連載です。今回は議論の文化について。中国、広州出身のクラスメート、インティンが論文の授業でこんな質問をしていました。「もし教授や偉いキュレーターにインタビューして、自分の意見と違ったとき、そのことを書いてもいいものでしょうか?」。先生方の答えは当然イエスで、クラス全体がそりゃそうよ、というムードが漂う中、私だけ「わかる、それ、その気持ち」と相づちを打ちました。日本は和を大切にするからなのか中国は検閲が

          ロンドン遠吠え通信 Vol.4

          ロンドン遠吠え通信 Vol.3

          ロンドン留学中の筆者がキュレーションにおける文化的差異について考えてみている連載です。第三回はコレクションの文化について。なんかこっちって家の中の様子が違う・・・と気づいたのは、クリスマスに招かれたとあるお宅にて。家の廊下や部屋の壁におびただしい数の絵画が飾ってあります。プロのものともアマチュアのものとも判断がつかない絵画群に、一緒に居た聡明なクラスメイト、ネフェルティティは「ちょっとどうかな?と思うセレクションだけど・・・そうね、みんな自分に関係があると思えるものを買ってき

          ロンドン遠吠え通信 Vol.3

          ロンドン遠吠え通信 Vol.2

          ロンドン留学中の筆者がキュレーションにおける文化的差異について考えてみている連載です。第二回はライティングの授業で考えたことについて書きます。 プレスリリースの、テキストと画像の分量が、日本とは逆かもしれない。ライティングの一環として行われた「プレスリリースの書き方」という授業で、ゲスト講師のコリン・ミラード(注1)が配布したサンプルの中、写真があるのは約半数。そしてあっても一つのプレスリリースに写真は1点だけでした。 「あの~、写真ってなくてもいいんですか?」と聞く

          ロンドン遠吠え通信 Vol.2

          ロンドン遠吠え通信 Vol.1

          序 「ロンドン遠吠え通信」は、拓殖響(さぼ)さんと坂口千秋(さかぐ)さんの、日本アート業界におけるセルフメディアの草分け的メールマガジン「Voidchicken nuggets」に、2014年から翌15年にかけて連載された、私のロンドン留学記である。  日本の公立美術館に12年勤めた後、2013年秋からRoyal College of Art、Curating Contemporary Artコースの修士過程で二年間学んだ。そこではイギリスを中心に、世界各国から集まった人た

          ロンドン遠吠え通信 Vol.1

          常盤橋タワーのアートコレクション

          2021年7月、三菱地所が手掛けるTOKYO TORCH 常盤橋タワーに、コダマシーン(金澤韻+増井辰一郎)がキュレーション、ディレクションして、アート作品18点を設置。 2020年に指名コンペで勝利し、その後の約1年で、作家との交渉と制作、インストールまで。私たちの日本初上陸となる記念すべきプロジェクトです。 18点のうち11点はビル就業者のための作品となり、一般客は見ることができないので、テキスト、写真、動画といろいろな紹介を試みました。TOKYO TORCH公式サイ

          常盤橋タワーのアートコレクション

          社会通念を変えていくには

          OCAT上海館で4月28日から開催されていたグループ展「环形撞击:录像二十一(英語タイトルはThe Circular Impact: Video Art 21)」で、作品の一つが厳しい批判をうけた。宋拓(Song Ta)の《校花》、英語タイトルは「Uglier and Uglier」(だんだん醜くなっていく)だ。 批判が出たのは6月17日、OCATがWeChatの公衆報でこの作品の説明を発行したタイミングだ(公衆報の中身は削除されてもう読むことができない)。 実は私がこの

          社会通念を変えていくには

          ”よりよい表現”が連れてくる暴力について

          2021年3月24日、「表現の現場調査団」の調査結果が報告された。これは国内で初めて美術や演劇、映像、文筆業などの表現の現場で横行するハラスメントの実態を調査したものだ。「自分は関係ない」と思う方にも一読をおすすめしたい。加害者として突然訴えられ、社会的地位を失うリスクの度合いを測ることができるだろう……などと書いたなら扇情的に響くだろうか。 しかしながらこの調査の一つの大きな目的は、表現の現場での「ないことになっている」ハラスメントを可視化し、それがそこに実際にあるのだと

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          ”よりよい表現”が連れてくる暴力について

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