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【エッセイ】のりのり
テスト期間に入ると他のものに手が伸びる現象が今回もやってきた。
友達との約束の前になるとだんだん行きたくなくなるあれに近い。あの億劫さにはそろそろ何かしらの名称がついていいと日々思っているが、テスト前のアニメワンクール一気見や突如始まる部屋の大掃除は確実に現実逃避というやつだ。すでに名前がついている。人類が悩んできた証拠だ。
今日は、洗濯をした。いつもは絶対にやらないくせに、ご丁寧に布団もシーツもすべて洗った。天気が良かったんだもん。明日のテストはマークシートって先生が言ってたから、どうせ出ても選択問題だもの。洗濯したら選択もうまくいくかなぁうふふ。
どうも思考がおじさんすぎていけない。
しぶしぶ机に向かうと、3年前の手帳が目に入る。まずい。今度はアルバム見始めると止まらない現象の延長線上に立っている。え、っていうか、もう2025年って、本当ですか。
2022年が3年も前だという現実すら受け入れられない私に、抗う力などないのだ。手が伸びる。ページを開けば、2022年、年明け、受験生の冬。共通テストを終えて二次試験の対策をしていた。
1月某日。
"久しぶりに生徒会の後輩の顔を見に行った。リスニングの演習の時に頭にもやがかかったような感じがしたから、リフレッシュしたいと思った。彼らはどうやら、宅配ピザを校門まで頼んで先生にこっぴどく絞られたらしい。あとスティック糊切らした。”
1月末日。
"今日でHRも終わりで、明日からは自由登校。私は明日以降も課外に通うけど、2月以降、卒業まで顔を合わせない人もいる。ちょっと寂しい。…という話を先日担任にした。以降、ほぼ毎日先生にそのネタでいじられている。世界史600字大論述の中で、モンゴルがせっせと銀を循環させている合間にも、いじられている。なおスティック糊は新しく買った。”
2月上旬。
"ドライヤーが壊れたから髪が乾かない。何ともいえない髪型ぶちかましている。うねりがすごい。友達が、ドライヤーの後ろの金網っぽいところの埃をとるといいと教えてくれた。直った。すごい。糊、また切らした。三日前くらいに買ったんだけどな。”
2月中旬。
”ローソンにふらりと寄ったら、チョコいっぱいだった。受験生の糖分補給かなあ、とのんびり考えていた私はあほなのかもしれない。バレンタイン2日前だよ!JKって、JKって!!!!もっとキラキラしてると思ってた!!!糊、せっかく昨日買ったのに持ってくるの忘れた。そもそもローソンにも糊を探しに来たのよな。全体的にボケてる。”
こいつ、世界の8割が受験、残り2割がスティック糊でできているじゃないか。なんなんだ。スティック糊なんて懐かしい文房具、配布物にプリントがあった時代の話だ。今やレジュメも課題もウェブ上にボタン一つでアップロードである。
とは言いつつも、3年前の私は、逃げたくても逃げずに頑張っていたらしい。かつての強さはどこに行ってしまったのか。なんだかがっかりしてきた。自分にがっかりすることほど情けない瞬間はない。
もっと粘り強かった私をとりもどせ、と自分を鼓舞する。
自分にがっかり、とか思っている暇があるなら眉間に寄せたしわを伸ばしてテスト勉強しろよ。
言い聞かせていたら、だんだんノリ気になってきた。いいぞいいぞ。
どうも思考は安定におじさんなのである。
仕方がないのだ。一段落したら、コンビニにチョコでも買いに行く。それを楽しみに、自分で自分の機嫌をとって頑張ると決めた。
バレンタイン用のチョコをテスト勉強のお供にしたっていいじゃないか。
テストなんて、人生ノリノリじゃないとやってられないもの。
洗濯から二時間かかって、私はやっと選択問題に手を付ける。
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