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米の飯と天道様はどこへ行ってもついてまわる【騙り部】

たまには創作を。(▶マガジン「騙り部(カタリベ)」)


いっつも家の外に出してもらえないのに、その日はみんな気が緩んでいたらしい。こっそり中学生のねえちゃんにくっついて家を出た。ねえちゃんがよく話している中学校ってどんなところなのか、この目で見てやろうってわけ!声をひそめて、こそっと陰に隠れる。どうやら上手く隠れられているようだ。誰にもなーんにも言われない。

そうこうしているうちに中学校に着いた。続々と生徒たちがやってくる。ねえちゃんの靴箱に入っているのは上履きだけだった。なんだつまんねえな、手紙を入れられるくらいになれってんだ。

まだねえちゃんはこちらの存在に気づかない。ねえちゃんは自分の教室に入って、リュックをおろし、手慣れた手つきで荷物を取り出している。チラッと見てみたが、机の中も大して面白くない・・・あ、「交換ノート」ってやつがある。あとでこっそり覗いてやろうか。

程なくして始まった1限目。
「え~それではね、授業をね、始めましょうかね。日直さん挨拶をね、お願いします。」
おじさん先生がそう言って授業が始まった。

「まずは前回のね、授業のね、復習をね、やっていこうかと思うんですけど。今日は15日なんでね、15番の人。日本の気候のね、特徴はなんだったっけ?」
15番の人が「温帯です」と答えた。
「ん~そうだね。もうちょっと詳しく言うと?温帯にもね、種類があったよね。それは何ですか?」
15番の人は「温帯湿潤気候です」と答えた。
「正解です。じゃあ次はね、アメリカのね、気候はなんだったっけ?はい、後ろの人。」

……さっきから気になっていたのは、ねえちゃんがノートの端っこに正の字を書いて、何かをカウントをしていること。おそらくだがこの先生、前にねえちゃんが言ってた「文節区切りおじさん」だな。文節ごとに何度も「ね」をはさむことで校内でも有名らしく、授業中に何度「ね」を言ったか数えるのが地味に流行っているんだとよ。

ねえちゃんは真面目のかたまりみたいな人間なんだが、こっそり「ね」のカウントなんかやってるタイプの人間なんだな。なんか意外ー。

結局200回を超えた「ね」のオンパレードが終わり、次は体育の授業らしい。ねえちゃんもバタバタと着替えに向かっていった。モタモタして最後になっちまうと、更衣室の鍵を職員室に返しに行かなきゃならねえんだってさ。みんな雑談していながら、最後の一人にならないように水面下で早着替えレースをしてるのを観察するのはおもしれえな。

チャイムが鳴り、準備体操が始まる。準備体操はラジオ体操だった。しっかしまぁ、この中学の人間は真面目だねえ。だーれもサボらずちゃんとやってんだから。

なーんて感心していたときだった。

やべ、バレたわ。

ねえちゃんと目が合っちまった。それは前に大きくかがんだら、上体を後ろにそらす運動で、ねえちゃんが前にかがんだときだった。

ねえちゃんは一瞬にしてものすごい形相になった。なんでアンタが?!なんでここに?!という顔だ。まあ、それは反応としては間違ってない。一旦上体をそらして一息つくねえちゃん。

次の前かがみのターン。
俺は空を舞った。
きれいな放物線を描き、地面に着地した。

さっきよりは離れた場所からねえちゃんたち中学生を見守る。ラジオ体操が終わったら、ねえちゃんはもう一度、さっき俺が隠れていた場所を確認していた。

あーあ、俺の双子も見つかっちまったようだな。ベリィッ、ベリベリッ・・・ポイッ!無慈悲にもグラウンドに投げ捨てられる双子。

一方で、準備体操が終わって、恥ずかしそうにうつむきながら先生の元へ集合しに駆けていくねえちゃん。
悲しませてしまったのは悪かったな。だがな、これはねえちゃんのウッカリが引き起こしたことなんだぜ?俺たちだって、恥ずかしかったんだからな?

だいたい、茶碗から俺らをポロっとこぼしたにしては量が多すぎやしないか?ボーっとしすぎだっつーの。冬だからって、椅子の上であぐらをかきやがって。行儀悪いっつーの。そんなんだから俺らを靴下の右にも左にもくっつけちまうんだ。

まあ、普段なら胃の中にいるところ、中学校なるものを体験できたのは良かったのかもしれんな。もう少しだけ体育の授業が遅い時間か、もう少しだけ俺たちが透明になるのが早かったら、結果は違っていたかもしれないが。

俺たち双子は中学校の校庭の砂の上で、空を眺めながらそっと目を閉じた。
 


中学生のとき、足にごはんのかたまりをつけていたことがありました。しかもスーパーボールくらいの大きさのかたまりを、もれなく両足に。
体育の準備運動中に、両足に張り付いているドデカいごはんのかたまりに気づいた時は、顔から火が出る思いでした。嘘だと言ってくれよ、オーマイゴッド。

たしか、ごはんのかたまりの存在に気づいた体育の授業は、3時限目くらいだったんです。それまでに通学路でも校内でも、かなりの人とすれ違っていました。絶対に誰かしら気づいていたと思うんだけど、なんで誰も言ってくれなかったの?!と3日くらい落ち込みました。思春期ですし、ショックは大きかったです。


どうかあの頃の自分が笑ってくれますように。本記事で昇華としたいと思います。


▶「米の飯と天道様はどこへ行ってもついてまわる」

太陽がどこでも照らすように、どんな苦しい境遇にあっても食べていくことはできる。

米の飯とお天道様はどこへ行っても付いて回る(こめのめしとおてんとうさまはどこへいってもついてまわる)とは? 意味・読み方・使い方をわかりやすく解説 - goo国語辞書

意味的には本文に沿ったものではないんですが、「どこへ行ってもついてまわる」ってこんなパターンもありかよ・・・という気持を込めてタイトルに採用しました。

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