優美があふれる至福の空間/アフィショマニ!ミュシャマニ!展【感想】
繊細で優美なミュシャのポスター画は、現代日本でも根強い人気がありますね。文房具や雑貨、化粧品のパッケージなどに採用されてもいるので、一度は見かけたことがある方も多いのではないでしょうか?
今回は国内で唯一のミュシャ専門の美術館である、堺アルフォンス・ミュシャ館(堺市立文化館)に行ってきました!
最寄り駅である堺市駅の改札を出たところから美術館の入口まで、ずっとミュシャロードのようになっているので、なんだか気分も高まります♪
今回の展覧会は「アフィショマニ!ミュシャマニ!」です。アフィショマニって何?とお思いの方、本展の概要は以下のとおりです。
つまり、アフィショマニ=ポスターマニアということなんですね!
では、展示内容に沿って感想を書いていきます。
※例のごとくパブリックドメイン以外の作品は、リンクを埋め込んでいます。
01 集めたい アートになったポスターを
展示室に入ってすぐに、ミニサイズのポスターが複数展示されていました。まず目についたのが、ロートレックの『ディヴァン・ジャポネ』。見たことあるやつー!とテンションがあがりました。
(ミュシャじゃないんかーいというツッコミは一旦脇へ……)
お次に向かえてくれるのは、ミュシャの『JOB』。ポスターと書籍版のものがありました。
書籍版とはなんぞや?といいますと、街頭のポスターはサイズも大きいため、アフィショマニたちは保管に苦労したそうです。そこで登場したのが、厳選されたポスター画をハンディサイズにしてまとめた『ポスターの巨匠たち』という書籍でした。
この作品を見て思ったのが、ミュシャのポスター画は現物の「金の輝き」を感じられないともったいない!ということ。キラキラとした光沢が、いっそう作品を輝かせていて、見る者の心をうっとりさせるんです。
また、当時のポスター画家たちの作品を見ていると、自分の好みがわかってきて面白いです。私が好きなのは、ベタッと単色塗りがされたやや平面的で、色は全体的に明るめな絵でした。……つまり浮世絵と似たものを感じさせる絵ということでしょうか?!
02 集めたい 日常をうるおすミュシャ・スタイルを
ミュシャは、サラ・ベルナール主演の『ジスモンダ』でポスター界デビューを果たし、この作品をきっかけに一躍有名になったそうです。
このコーナーでは、絵画まわりの装飾がかなり凝っていました。ポスター芸術に溢れていたというパリの街を意識してくれているのでしょう。美術館運営者さんの努力の表れですね。
展示作品でおもしろいと感じたのは、ウェイヴァリー自転車のポスター。
↓インスタの右奥に映り込んでいるものです。
女性が鉄の服を着ていたり、手に月桂樹を持っていたりします。解説パネルには、「月桂樹は「鉄の勝利」の象徴でしょうか」とありました。なんでもミュシャは、当時の象徴主義文化のコンテクストにあって、装飾や文様の中に広告の品の特性をにおわせることもあったそうです。
読み解く楽しさ。それがまたアフィショマニたちが熱狂する要因になったわけですね!
▷ポスターから広がる ミュシャマニアイテム
ミュシャのポスター人気は、室内装飾用の文字なしバージョンの需要へと結びつき、装飾パネルの名作が数多く誕生したそうです。広告としてではなく、芸術作品として家に飾りたいということですね。
現代でもミュシャの絵とのコラボ商品は、この頃の装飾パネルのものが多い印象があります。当時のパリの人も、現代日本人も、ミュシャの作品を広告としてではなく、装飾品として自分の手元に置いておきたくなる気持ちは一緒なんだと思いました。
私の好きな四季シリーズも展示されていたので、お目にかかれて嬉しかったです。
▷アール・ヌーヴォーの芸術家たち
同時代のポスター画家たちの作品がいくつかありました。
たとえば、ベルギーのミュシャと呼ばれたプリヴァ・リブモンの作品。たしかにちょっと似ているかも?
同時代の作品と見比べるのも楽しいです。
▷身につけたい 私だけのミュシャスタイル
ミュシャが宝飾店フーケとコラボした、ミュシャデザインのジュエリーもありました。
別の展覧会のものですが、分かりやすかったので概要を引用します↓
堺アルフォンス・ミュシャ館でも、蛇のブレスレットと指輪が展示されていました。
デザイン性が高いのは分かりますが、さすが舞台用のアクセサリー。普段使いするのにはなかなかレベルが高いです。
ちなみに、このアクセサリーが描かれたポスターも展示されていました↓
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さて、別のフロアでは、ミュシャの作品をなす「リトグラフ印刷」について解説したコーナーが設けられていました。
そちらについても簡単に触れておきたいと思います。
同時開催:#5 特集!リトグラフ
ポスター芸術の先駆けとなったのは、ジュール・シェレという人物。彼は研究を重ねて、それまでのモノクロ刷りから赤・青・黄の3色を用いたカラー刷りに転換させました。彼の作品に登場する赤青黄の女性は、シェレットと呼ばれたそうです。
そんな多色刷りへと発展を遂げたリトグラフ印刷ですが、ミュシャの絵がどのように刷られていたのか、正確なところはまだ解き明かされていないそうです。
現代の研究者の方が推測するリトグラフ印刷について、図版や道具と共に解説されていました。
リトグラフ印刷は石板を用いた印刷で、石板1枚に付き1色ずつ顔料をのせて手作業で刷っていきます。そのため、線からはみ出したり、色の刷り忘れがあったりするそうです。なんだか浮世絵と似ているなと思いました。
※リトグラフ印刷について詳しく知りたい方は、美術館公式YouTubeの動画をどうぞ↓
その他
美術館の内装は見事にミュシャだらけ。エレベーターの中も、エレベーターホールも。なんならトイレの鏡まで!ミュシャ風の美空間づくりがなされていることが素晴らしいと思いました。(それっぽいBGMが流れているところがあったのも面白かったです。)
フォトコーナーが多数あり、ミュシャの世界に自分が入り込んで映え写真を撮りたい!という方にもおすすめです。
▶︎全体的な感想
アフィショマニたちはあの手この手でポスターを集め、時にはポスターを盗みもしたのだと言います。ほれぼれするような美麗なポスター作品を見ていると、盗みを犯してでも手に入れたくなる気持ちがよく分かりました。
美術作品の中には「神々しくて手が出せない」と感じるものもありますが、今回見てきたポスター画は、美しいけれどお高く留まっているのではないのです。やはり、大衆に訴えかける広告だからこその親近感なのかもしれません。
心が惹きつけられるような美しいポスターが街にあふれているって、当時のパリ市民はなんて幸運だったのだろうとうらやましくなりました。美に囲まれていたら、歩くだけで幸せな気分になれそうです。
かくいう私も、実は一度だけポスターを持って帰りたくなったことがあったのを思い出しました。それは東京駅100周年記念ポスターで、駅員さんにもらうことはできないか尋ねようかと何度も逡巡したものです。
またそんな感情を掻き立てられるような美しいポスターに出会えたらいいな。もっと顔をあげて街を見渡してみたら、なにか発見できるかな?
街中に美が溢れることはなかなか難しいかもしれませんが、美術館はそれが叶う至福空間なんですよね。だから好きなんだよなぁと改めて思いました。
◆展覧会情報
場所 :堺アルフォンス・ミュシャ館(堺市立文化館)
会期 :2024/08/03(土)〜2024/12/01(日)
休館日:月曜日、休日の翌日(11月5日)
HP :堺 アルフォンス・ミュシャ館(堺市立文化館) (sakai-bunshin.com)
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