成功にまつわる努力と幸運の奇妙な関係
1995年、ピッツバーグの銀行に白昼堂々と強盗が押し入った。犯人は銃を行員に突きつけ金を出すよう指示をしましたが、その顔に覆面はなく数多くの監視カメラに人相がバッチリと写っています。その映像は地元のニュースで大きく取り上げられ、数多くの情報提供により夜更けには犯人が逮捕。まさか信じられないという表情で犯人はこう叫んだ。「ジュースをかぶってたのに!」
犯人のマッカーサーはレモンジュースを塗りさえすれば防犯カメラに映らないはずだ。っと真剣に語ったのです。
誰しもこのような珍事件を聞けば「世の中、間抜けな奴がいるもんだ」っと他人事で冷笑するかもしれませんが、とある研究者はこの愚かな罪人に人間の普遍性を感じダニング・クルーガーエフェクトと名付けました。認知バイアスの一種です。
無能な人ほど、その無知を自覚できず自分は有能だと思っている。大抵の人は平均的であるはずなのに、自分だけは特別で普通よりも優れていると信じる。何かについて実際はほとんど知らないはずなのに、ある種の専門家のような立ち振る舞いをする。このような幻想的な優越感は自分が正しいのか間違っているのか客観的な能力が著しく低下するため、危険な行動を促したり、欠点の改善を妨げたりもする非常に身近なバイアスです。
おそらく聞いた人が希望を抱き、気持ちの良くなるアドバイスに「努力をすれば成功する」という努力論があります。どんな分野であったとしても誠心誠意、頑張り続ければ、いつか夢が叶えられる。
ですが、それこそレモンジュースと同じように、このアドバイスが成功への突破口だと過大評価し、客観性を失い、そのお陰で全く役に立たないだけではなく、逆に足を引っ張ってしまう事態に陥るなら、ここはあえて希望を失い気分を害するかもしれない側面にも考えを巡らせた方がいいでしょう。つまりは、成功に対する幸運の役割です。
ほとんどの場合、私たちは受け取っている幸運を軽視しているか、または気付いていないことがほとんどです。まずは運動機能と才能についてお話をしましょう。スポーツの研究者は無作為に選ばれた5,000人を対象に全く同じトレーニングを実施してもらい成長の速度について調べました。(J Physiol. 2011 Jul 1; 589(Pt 13): 3063–3070:トップアスリートと遺伝子)
ご想像の通り全く同じボリュームのトレーニングをしたとしても、そのパフォーマンスには大きな違いが現れた。さらに興味深いのは優秀な成績を収めた人の血液を調べてみると、共通した遺伝子が発見されます。生まれつきの運動体質です。なので、身体機能の高い親やトップアスリートの親戚がいる場合、本人もそれを受け継ぐ可能性が高くなる。この遺伝子プロファイルはハイレスポンダーと呼ばれており、運動神経の向上はこの遺伝子に約66%相関しています。
ほかにも筋肥大の割合について大きな影響を与えるDNAにミオスタチンがありる。通常、筋量が増えすぎると体内のエネルギーを湯水のごとく消費するため、ミオスタチンを放出。これ以上の筋肥大をしないようタンパク同化作用を抑制します。特定のDNAはミオスタチンレベルが非常に低いため、より大きな筋量をごく自然に身に付けることができる。ベルギーの「ベルジャンブルー」という食肉牛は生まれつきミオスタチン遺伝子が欠如しているため、特別なトレーニングやダイエットをしなくても信じられないほどの筋量が蓄えられています。
自分の努力を誇る人は山ほどいますが、皮肉にも才能に感謝している人は少ないものです。なぜなら自分のしてきたことはすべて把握できますが、他人からしてもらったことは大抵、見過ごされやすいからです。
そこで偉大な業績を指さして「それは幸運の産物ですね」っと指摘したのなら多くの成功者は気分を害します。当然のことです。結果が偶然に起きた出来事なら、これまでの自分の努力は水の泡になり価値がなくなってしまう。「どれだけ積み上げてきたかお前に分かるか?」っと憤慨します。それが正当なフィードバックであったとしてもバイアスに侵されている状態で人は考えを改めません。
成功するうえで大事なもの。ほとんどの創作物では努力がより強調され成功の条件として描かれがちですが、正確には努力と幸運の両方が必ず必要です。幸運に恵まれていたとしても高い基準で努力をしなければ成功するのは難しいでしょう。逆に幸運に恵まれていなければチャンピオンと全く同じ、またはそれ以上の代償を支払ったとて勝つ確率は極めて低いといえます。
ここに成功のパラドクスが誕生する。幸運の重要性を軽視するほど、つまりは努力論を信じるほど私たちの成功率は上昇します。なぜなら成功の原因を内に秘めることで、外的理由を言い訳に努力を差し控えることが少なくなり、その代償の分だけ成功のチャンスが近づくからです。この点で運命は自らの手中にあると信じるのは有益な物語です。きっと努力論は獲得した社会的地位を正当化する真っ当な理由になるでしょう。巨万の富や絶大な影響力を手に入れたのは自分の知性や勤勉さ、忍耐力や想像力のお陰だと他人にも納得してもらいやすくなる。そして他者を勇気づける動機付けにもなるでしょう。
しかし、それを現実とはき違えれば本当に重要な部分を見逃し、最終的には不平等が蔓延する有害な社会を形成することに繋がります。つまり、行きつく先は金持ちがより金持ちになり、貧乏人がより貧しくなる勝利者総取りの社会です。
とある研究(UC Berkeley professor Dacher Keltner (2008):権力が人を利己的にする仕組み)では同性3人を1グループにわけ、リーダーをひとり無策に任命し複雑な道徳の問題について話合わせさせました。その30分後、報酬として4つのクッキーが与えられたのですが、全員で割っても1つ余ります。余分なクッキーは誰の手に渡るでしょう?ご想像の通り、どのグループでもリーダーが4つ目を受け取りました。目立ったディレクションを発揮したわけでもなく、特別な責任も負わされたのでもなく、偶然その地位を獲得しただけ。なのにです。多くのリーダーに邪な考えや悪意はもちろんありません。ですから、もらったクッキーは努力に対する正当な配当として喜んで食べ始めます。
これが私たちの暮らす社会で、特に経済や政治の世界で何を意味しているのか考えてみて下さい。彼らは社会のルールを形成する立場にいます。我々は実績のない人よりはある人の意見を信じます。よって99%の敗者ではなく1%の勝者にマイクが渡される。「これが有効だ!これこそが正解だ!」では、その真似をすれば、本当にそうなれますか?勝率をあげる合理的な理由にでしょうか?失敗やケガの「悪い例」にはならないでしょうか?
もちろん間違いなく彼らは勤勉であり絶え間ぬ努力のうえでその勝利を獲得したのでしょう。しかし、それと同時に類まれなる幸運に恵まれていたのも事実です。幸運を掴むや引き寄せるなど言葉の綾にすぎず、失われるまでその存在は隠れています。
もしも努力論が蔓延し幸運の存在が認識されなければ、人間は自分よりも劣った人々をどう評価するでしょう?当然の見方として、敗者は怠けているに違いないと結論付けます。そして歪んだ世界の物語は社会に広がっていくのです。
この動画を作っている私も、それにたどり着けた皆さんも例外ではありません。日本に生まれた時点で世界のトップ5に入る幸運の持ち主であり、最新のテクノロジーを持ち歩き、文字を読むことができ、綺麗な水や空気がいつでも手に入ります。しかし、その幸運を認識するのはとても難しいのです。
この傾向から恩返しを自主的に行う意欲は減り、偽善者は増え、格差は広がっていく。金持ちの子は金持ちになって平等であり、貧乏人の子は貧しくなって当然の報いになっていくのです。
幸運の存在を認めれば現実的な選択が容易になるだけでなく、感謝の気持ちが増して幸せな気分になりますし、成功者から振り下ろされる“非現実的な言動”にも無駄な劣等感を抱かずにすみます。幸運は幸福の鍵です。
逆説的なアドバイス
最後に「俺は努力をしたはずだ!」っと叫ばなくてもいいように逆説的なアドバイスをまとめます。初期段階の内は努力と幸運が最強の組み合わせであると自覚して、様々な分野を通じて自分のことを知ってください。何が得意で何が好きなのか?ミュージシャン、作家、美容師、エンジニアなど経験を積むにつれ特別な領域を発見する可能性が飛躍します。自分の才能、周囲の環境、タイミングの変化など幸運は揺蕩っており、盲目的に最初の選択だけが努力の対象だとは決めつけないでください。
領域を発見したら幸運の存在は忘れて下さい。成功の可否はすべて努力にかかっています。運命は自分次第だと信じ、疑ったりよそ見をするのは厳禁です。実直に練習量を増やし、適切なフィードバックを求め、前回よりも1歩前進するよう強く意識します。責任を負うことは学習の基礎です。常に自分の努力不足であり、反省すべき改善点が浮き彫りになってきます。ただし、同じ信念がみんなにも当てはまるはずだと指を刺さないでください。自分の信念と他人は無関係です。
最後に成功したら努力の存在は忘れます。成功できたのは幸運が重要な役割を占めていたからであり、自分のしてきたことは、そのおこぼれを利用させてもらったにすぎません。自分がしてもらったように他人にも同じ幸運を恩返しするんです。朝、起こしてくれた母親に。やり方を教えてくれた先輩、これまで支えてくれた社会に縁起の良くなるお返しをしてください。
4つ目のクッキーは特別になるために与えられたのではなく、解決するために与えられたものです。
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