開館35周年記念特別展 初期伊万里・朝鮮陶磁 /戸栗美術館
「日本一の古伊万里コレクター」を目指した男の美術館が、渋谷の高級住宅街・松濤にある。戸栗亨氏が創設した、戸栗美術館だ。
初期伊万里、古九谷、柿右衛門、金襴手、鍋島といった肥前磁器を網羅し、かつ常設で見せてくれる美術館は、東日本ではここと栗田美術館(栃木)くらい。
今回はそのコレクションから、日本最初の磁器・初期伊万里を特集。併せて、主に技術的な面で初期伊万里の源流をなした朝鮮陶磁を展示する。館蔵の高麗・李朝のやきもの30点が一堂に会するのは、15年ぶりという。
2階に4つある展示室のうち、最大の部屋を含む3室で初期伊万里、もう1室で朝鮮陶磁を展示。
最初の小部屋では、肥前磁器の流れを説明すべく古九谷、柿右衛門、金襴手も数点出されていたが、あとはオール初期伊万里・朝鮮陶磁である。
肥前磁器をまとめて観るのは久々で、脳内に残っていたイメージとの落差に、まず面喰らってしまった。
磁肌・発色のよさに感嘆し、筆線に魅せられ、意匠に驚き、造形の精妙さにうなる……やっぱり、実物はいいものだ。たまには肥前磁器の展示も観に来なきゃなと思わされた。
戸栗美術館の解説はいつも詳しく、体系的。スタンダードから珍品まで、いいものを取りそろえているので、じっくり腰を据えて肥前磁器のお勉強をしたい方にはうってつけだ。
今回も、実物を用いた教科書ともいうべき流れのなかに、佳品・珍品が組み込まれていた。
簡潔な染付で梅が描かれた、5客組の皿。描きぶりは、一客一客異なっている。宴席で取り皿として配り、それぞれの梅の絵を観ながらあれこれ話せたら楽しかろう。
眼光鋭い猛禽が、雄渾な筆致で大きく描かれる鉢。料理の盛りつけで隠れてしまうのがもったいないほどで、見入ってしまうすばらしい絵付けだった。
朝鮮陶磁の展示作品は、高麗青磁、李朝陶器、李朝磁器に大別される。
やはりというべきか、初期伊万里の直接の祖先である李朝磁器、殊に染付に優品が多かった。
ホームページにも出ている秋草手の長頸瓶は、コレクション中の白眉であろう。おなじみの楚々とした秋草文が、ありそうでない鶴首の瓶に施されている。
このほかにも猫虎が大きく描かれた立壺や、よく見かける龍文の壺でありながら、サイズが小ぶりでかわいらしいものなど、すぐれていた。
先日、日本民藝館の常設展示でも朝鮮のやきものを観てきたばかりだが、戸栗美術館のそれは、柳宗悦が好んで蒐めたものとは一部重なりつつも、基本はずいぶんと性格が異なっていて興味深かった。
民藝と、鑑賞陶磁。ふたつの館のふたつの視点を綜合すると、朝鮮陶磁の懐の広さが感じられてくる。そしてその延長線上に、初期伊万里もあるのだ。
まもなく、年度替わり。
今年度も、よきやきものにたくさん出合えるといいなぁ。
※こちらのサイトに、展示室内の画像がいろいろと載っている。