ハッピー龍イヤー! 〜絵画・工芸の龍を楽しむ〜:1 /静嘉堂@丸の内
今年の干支「龍」をテーマとした館蔵品展である。
伝説上の動物・龍は、十二支のなかで一二を争うほど、東洋美術には頻出のモチーフ。とくに発祥の地・中国には、歴代王朝の為政者が権威の象徴として龍を重んじてきた長い歴史がある。
最後の王朝・清が辛亥革命によって瓦解する前後、王宮や貴顕の邸宅に秘蔵されていた中国美術が次々と国外へ流出していった。ワールドクラスといわれる静嘉堂文庫の中国陶磁コレクションが形成されたのは、まさにこの時期。漆工や染織などその他の分野を含めて、龍のモチーフが施された中国美術の名品がこの館には多数所蔵されており、本展の核となっている。
ひとつ前・昨年秋の展示は「二つの頂 ―宋磁と清朝官窯」だった。本展にも清朝官窯のやきものはかなり出品されていて、奇しくも続編のようになっていると同時に、この分野に関しての静嘉堂のお蔵の深さを感じさせた。
ロビーの行灯ケースに展示されていた《青花黄彩雲龍文盤》(景徳鎮官窯 清時代・18世紀)。
文様の狭間に塗り込まれたレモンイエローは、かなり厚く盛り上げられており、染付の龍が逆に浮き立ってみえる。イエローの彩度は高く、きわめて鮮烈だ。
同じくロビーに、対になる形で展示されていた《青花紅彩龍文盤》(景徳鎮官窯 清時代・18世紀)。
龍の姿は、こちらのほうが目立つだろうか。中央の1匹が、周囲の4匹を従えている。4匹の裏面・器の側面にもやはり4匹おり、計9匹の龍が細密に表される。
龍・雲・波というモチーフを中心に構成される、同程度の寸法の大盤2点。しかしながら、賦彩の方法や組み合わせによって、印象は大きく分かれる。
これら2点とはやはり同じくらいの大きさで、より複雑な文様で緻密に埋め尽くされた《豆彩龍鳳文盤》(景徳鎮官窯 清時代・18世紀)。
それでもどぎつい感を受けないのは、淡い染付で輪郭線がとられ、その枠内に色彩が収められているからだろう。技巧を鼻にかけない、やわらかな空気を放つ作だ。
上絵の一部にはキラキラと光を照り返す釉薬が使われており、そのさまは観る角度を変えるごとに観察できた。
下の写真は仰ぎ気味から撮影。照明が反射して、上に述べた現象が確認できる。
中国由来の龍のモチーフは、朝鮮半島や日本にも伝播した。
高麗青磁の龍の頭部をかたどったつまみ、見込みの双魚や象嵌の水鳥の頼りない感じ、さらに李朝の鉄砂によるユーモラスな筆を観ていると、やや極端な例で時代も異なるとはいえ、地域性やお国柄の違いを痛感させられるものだ。(つづく)
※昨年の静嘉堂・干支展。