ことしの祇園祭:1
毎年7月の1か月間、さまざまな行事が展開される京都の祇園祭。
一般には7月17日の前祭(さきまつり)、24日の後祭(あとまつり)の山鉾巡行がハイライトとされていて、全国ニュースで取り上げられるのは大きな鉾と相場が決まっている。山鉾巡行に満足して、帰ってしまう観光客は多い。
けれども、山鉾とは本来、神輿渡御に先駆けて市中を祓い浄めるもの。祭の主役はあくまで、神輿に奉られた八坂神社の祭神なのである。
わたしは今年、17日の前祭へうかがい、日中は山鉾巡行を観覧、夕刻から神輿を先導する御神宝の奉持列にボランティアとして参加させていただいた。昨年は後祭のみで、前祭への参加は初めてである。
今年の祇園祭、殊に前祭には、いろいろなアクシデントがあった。わたしが見てきた当日のもようを書き記すとしたい。
祇園祭は、毎年日付が決まっている。「11月の第3木曜日」のようなカレンダー準拠ではないため、平日に重なる場合も多い。
今年の7月17日は、水曜日。御奉仕が終わる頃、新幹線の終電はとっくに出ているから、水・木と平日休みを入れて祇園の近くに宿をとった。
当日の10時32分、京都駅に到着。山鉾巡行は9時からスタートしており、予定では11時に烏丸御池でゴール(?)を迎えたのち、それぞれの町内に戻っていく。つまり、京都駅から地下鉄に乗って向かえば、ちょうどすべての山鉾を観覧できる寸法だ。
山鉾が巡行する御池通は、通行には困らない程度の混雑ぶり。一昨日に新聞で見た宵々山のすし詰め状態からすると、拍子抜けではある。平日昼だったからか。河原町通では、こうはいかなかったはずだ。
東京から前乗りせずに祇園祭へ向かうならば、この「新幹線で10時半頃ゆっくり到着→地下鉄で烏丸御池→ゴールを見守る」というのは、なかなかに理想的なプランニングと思われた。
混雑していたのは、歩道よりむしろ車道のほうだった。どういうことかというと、歩道寄りの車道両側が有料観覧席になっており、大勢座っていたのだ。
祇園祭直前の6月末、「プレミアム観覧席」(¥150,000也)でのアルコール等の提供に対して、八坂神社が異議を唱えた一件があった(結局、提供は見送られた)。
プレミアム席は河原町御池交差点の角、山鉾が巧みな方向転換をみせる「辻回し」が間近で観覧できる位置にあり、わたしが見た「一般有料観覧席」(¥4,100〜11,000也)とは異なるが、この一般席、プレミアム席と違って日よけの庇もなければ、各列に段差もない。腰掛けるのは、ふつうのパイプ椅子。隣とは密で、後ろの人もいるため日傘は差せない(たぶん、差すのは禁止とされていたのだろう)……なかなかに酷な環境と映った。熱中症になる人は、出なかっただろうか。
わたしのほうはというと、とくに混乱もなく、交差点の良好なポジションに陣取ることができた。「在原業平邸址」の石碑が立つあたり。京都の市街地を歩いていると、こういった石碑やプレートがあちこちに現れて楽しい。
日傘が大活躍するも、時間が経過するとともに沿道のビルの影に入っていき、差す必要すらなくなった。電柱に寄っかかることもできた。一般席より、よほど快適だったかもしれない。
場所の確保ができてまもなく、長刀鉾(なぎなたぼこ)がやってきた。
祇園祭を紹介する映像や写真に採用されているのは、たいていがこの長刀鉾。薙刀の刃を頂点に戴く、壮麗な鉾である。
木組みの車輪をきしませながら、祇園囃子の音色とともに走行。曳き手はさぞやたいへんかと思いきや、人海戦術ゆえか、ひとりあたりの労力は、はたからすればさほどではないようすであった。いつか、体験してみたいものである。
この長刀鉾を皮切りとして、個性豊かな山車があと22基もやってくる——はずだったのだが……(つづく)
※昨年・後祭のレポート。全4回(記事の最後に次回リンクがあります)