川俣正「アパートメント・プロジェクト」1982-86 ドキュメント展 ~TETRA-HOUSEを中心に~ /GALLERY A⁴
1982年12月、東京・桜上水のありふれたボロアパート「宝ハウス」の205号室に……用途を持たない大量の板材が組まれていった。
川俣正による「アパートメント・プロジェクト」はこうしてはじまり、1986年5月までにさらに4つの建物が、今度は外観から板材で覆い隠された。
ドローイングや写真・映像、メディアの報道ぶりなどをもとに、5つの「アパートメント・プロジェクト」をよみがえらせる展示を観に行ってきた。会場は、竹中工務店東京本店内の「GALLERY A⁴(エークワッド)」。
わずか30秒のダイジェスト動画が上がっているので、ぜひご覧いただきたい。
動画で触れられているように、本展では札幌の狭小住宅に板材を組み上げた「TETRA-HOUSE」(1983年)の紹介に多くが割かれていた。
ビルの前庭に建てられた再制作品が、こちらである。
美術館でもギャラリーでもない、ありふれた日常的な空間に、見慣れた素材だけでできた、しかし、じつに異質な物体が忽然と現れる不思議——こういった違和感、驚きや戸惑い、自分が見知っている常識との「ずれ」こそが、この作品の肝といえよう。その効果は住宅でなくとも、現代的なビルの前庭においても変わりはない。
木の板には規則性が……なさそうで「ある」? ありそうで「ない」? 受け止めは人によりけりで、異なりそうだ。
少なくとも完成品には見えないし、特定の機能を満たしていそうもない。絶妙に未完成で普請中、まだまだ仮設の状態。手が加えられていきそうな気がする。これからどうなるのかと、勝手に想像するのも楽しい。
この感じ、どこか懐かしい……そうだ、子どもの頃に友だち数人で築いた「秘密基地」だ。
「アパートメント・プロジェクト」では川俣ひとりでなく、周辺に住む人びとをも巻き込んで、計画や予算を組むところから施工、撤収までをおこなった。
この協働的な性格にも、秘密基地を思わせるところがあった。
——少年たちがつくる秘密基地は、えてして地主などの大人や上級生にすぐに見つかってしまい、あえなく破壊される運命をたどるもの。わたしたちの秘密基地も、そうだった。
「アパートメント・プロジェクト」もまた恒久・常設の作品ではなく、期間が過ぎれば撤去され、この世から消え去る。こういった点もやはり秘密基地に似ているが、本展ではそれを最大限、再現することに努めるものだった。
「板材を打ちつけていく」、それだけの黙々・淡々とした反復作業のなかに、熱く静かに燃える表現志向を感じる展示であった。