見出し画像

超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA:1 /三井記念美術館

  「超絶技巧」を有する現代作家17名の驚くべき作品を、その先達といえる明治時代の工芸作品を添えて紹介する展覧会である。

 リストを改めて確かめると、現代の作品が計64点に対し、明治の作品は60点。数字の上では拮抗しているが、展示を拝見した実感からすれば、いささか意外。明治よりも現代のほうに、より比重が置かれていた印象が強いのだ。
 会場では「現代→明治」の順で、前後に二分して展示(数点は混交)。現代工芸は比較的ゆとりをもった空間で展示され、明治工芸は最後の2室にぎゅっとまとめられていた。
 本展は、同館で開催されてきた「超絶技巧!  明治工芸の粋」(2014年)、「驚異の超絶技巧!  明治工芸から現代アートへ」(2016年)に続く、第3弾の「超絶技巧」展。
 これらの展覧会名からうかがえるように、当初は明治工芸が主。現代の作品は2014年の展示ではタイトルにすら挙がらず、「おまけ」というくらいのものだったが、2016年の展示では明治に互し、今回の展示でついに逆転。明治を追い抜いて「未来へ!」と、さらに前を見据えている。そういった点が、会場構成からもよくうかがえたのであった。

 展示室をまわりながら、最初から最後まで、感嘆のため息が尽きることはなかった。
 展示作品のなかには、これまでの展示やテレビでの紹介をとおして見知っていたものもあったけれど、やはり、現物を観るにしくはない。改めて、そう思った。

 たとえば、福田亨 《吸水》(2022年)。蝶々が、板の上に溜まる水を、ちゅーっと吸引している。

 板とその上に点々と乗る雫は、素材からしてまったく違いそうなものだが、紛れもなく同じ木から彫りだされており、かつ、雫は別パーツの挿しこみや貼り付けではない、一木(いちぼく)である。つまり、平滑にみえる板の面は、雫の箇所を残して彫り下げられている。
 また蝶々には、着色が加えられていない。異なる色の木材を組み合わせることで、色の違いや、薄く華奢な蝶の身体を表しているのだ。
 以上のような制作過程については、じつは事前に把握していたけれど、展示室で間近で凝視しても、いまこうして写真で観ても、到底信じがたい。どんなに疑ってかかっても、粗がてんで見えてこないではないか。
 美術館で作品に接すれば、その尻尾くらいはつかめるのでは……と、淡い期待をしていたところもあった。
 じっさいはそんなに生半可なものではなかったけれど、それくらいすごいものだということが確認できた点は、よかったと思う。ホンモノに触れる効用としては、こういったものもあるのだ。

 ——この《吸水》と同じく、「目の前で、なにが起こっているのかわからなくなる」といった体験が、本展のなかでは数多くできた。
 われわれが持ち合わせている知識や感覚をゆうに超越していく、現代工芸の逸品。その一部を、次回も引き続きご紹介していきたい。(つづく



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?