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第10回 日本の水石展:3 /東京都美術館
(承前)
わたしが惹かれたのは「神居古潭(カムイコタン)石」。
北海道に上陸したことがない(!)わたくしでも、神居古潭がアイヌの人びとに神聖視される渓流だという知識だけはあった。
そこから採れた石というだけで、どこか聖性を帯びて映るものだが、わたしがよいなと思ったのはその造形。以下のサイトに大きな写真が複数出ている。
よく練りこまれた名墨のように、ぬるりとした質感の漆黒の肌。角のない、おおらかな膨らみ。日本庭園の庭石では周囲から浮いてしまいそうで、やはり水石にして室内にかざるのがよいかなと思った。
かざりといえば、室礼の展示もあった。
床の間ふうのスペースにお軸と水石を設えるもので、コーディネートの妙が見どころ。この床飾りの作法にも、水石の世界に独特のものがあると思われた。
![](https://assets.st-note.com/img/1676793528744-efHX1JpJcd.jpg?width=1200)
まず、石をお軸のセンターではなく、左右どちらかに大きくずらして据える点。これは盆栽も同様だったと思うが、盆栽に比べると高さのないものが多く、お軸の本紙にかかることもないため大きな空間ができ、特徴的にみえる。
取り合わせる絵は、上の写真からもうかがえるように、月ひとつ、鳥が2羽といった、描きこみや密度が少ないあっさりとしたものが好まれるようだ。書も、おおむね同様の傾向。
画派・系統としては、やはり円山四条派や狩野派の瀟洒な水墨・淡彩が多かった。濃彩のものは見かけなかった。書は現代書が多かった。有名どころでは狩野探幽や横山大観の画、西郷南洲の書などが出ていた。
また、写真中央・右のような細軸も多用されていた。
お軸の手前、石とは反対側に小型の宝塔を添える例もよく見かけた。これはとくに特徴的と思われた。
塔は近現代の陶製のものから、写真中央のように、毘沙門天像の掌上から持ってきたであろう室町期の宝塔まで。
これはなんだろうか。
おそらく……石が山であり、お軸がその背景をなす空間、空などを示すのであれば、宝塔はさしずめ山水風景のなかにある古寺の塔の見立てであろうか。
そう気づいた瞬間、月明かりのもとで山容が穏やかに照らし出され、古塔のシルエットが望める壮大な山水風景が、眼前に出現したのであった。
水石の床飾りにおいては、石が主、お軸が従となるよう気が払われていた。石と書画とが妍を競う、といったことがない。
これにより、床の間全体と鑑賞者をとりまく空間とが、石を中心として一体的に調和していた。
石はその周囲の、本来はなにもない場所に、なにかを生み出している。石が磁場となって、空間を変容させるのだ。
水石とはまことに “余白の芸術” であろう……そんなふうに思われたのであった。
ーーなかなか触れる機会のなかった、水石の世界。小難しいかと思いきや、まったくそんなことはなく、「自然に親しむ+イマジネーションのトレーニング」くらいのスタンスでもじゅうぶんに楽しめそうなものであった。
もちろん、究めようと思えば、奥が深いものでもあろう。
次回の展示も、ぜひうかがいたいものだ。水石について、もう少し勉強しつつ……
※おととし、同じ東京都美術館では「イサム・ノグチ 発見の道」が開催されていた。やはり「石」が重要なテーマとなる展覧会であったが、同時期に開催していれば、けっこう人が入ったかも。