木隠静働:1 気韻生動 /明治神宮宝物殿
千駄ヶ谷の国立能楽堂を離れて西へ、明治神宮の宝物殿に向かった。
明治神宮は2019年、満を持して「明治神宮ミュージアム」を開館。祭神・明治天皇の遺品や事績の紹介に加え、存命の作家による同時代の美術作品が展示の新たな軸となった。若者の街である原宿や渋谷、ギャラリーが林立する南青山に近い土地柄を反映したのだろう。神宮の森に新しい風が吹いている。
一年ほど前から、明治神宮では「神宮の杜芸術祝祭」の名のもとに展示・イベントが開催されてきた。聖域たる森のなかに現代アートを据えつけ、鑑賞者に作品を探しながら森のなかを逍遥してもらうといった挑戦的な企画も目を引いた。そんな芸術祭の掉尾を飾る展示「気韻生動(きいんせいどう)」がはじまったので、こうしてやってきたのだ。
会場の「宝物殿」は奥まったところにあり、明治神宮の表玄関・原宿駅からは程遠い。古代の校倉造を模した戦前の鉄筋コンクリート建築で、以前は明治天皇の馬車だとか、愛用の机だとかがひっそりと展示されていた。軍国主義の時代で時が止まったかのような、言っちゃ悪いが「不気味な」施設だったのを覚えている。
そんな宝物殿の中身をいったん空っぽにし、建物自体の文脈とは関連の薄い彫刻を中心に陳列したのが今回の展覧会。
天井が高くだだっ広いわりには薄暗い、じめっとした感じは相変わらずだったが、ここにもまた新しい風が吹きこんでいるようであった。
展示作品は、日本近代彫刻の大家・平櫛田中の木彫と、現代の美術作家による彫刻・立体作品。一部、絵画や宮島達男のデジタルカウンターも。
名称に冠された「気韻生動」とは中国の画論に由来する言葉で、日本の近世の画論にも頻出する。公式ページから説明を借りれば「芸術作品に気高い風格や気品、また、生き生きとした生命感が溢れていること」。この境地へ到達することが、すぐれた絵画の条件、東洋絵画の理想とされてきた。
平櫛田中の木彫と現代美術の対置をもってして「気韻生動」と称する、その心はなんだろうか。さしたるイントロダクションもないなか、この四字熟語を終始気に留めながらの鑑賞となった。(つづく)