魅惑の色彩 天才の描線 光琳×蕪村 金襴手×乾山:4 /東京黎明アートルーム
(承前)
乾山の話をせずに、この鑑賞記を終えることはできまい……
展示の冒頭を飾ったのは、乾山焼のうつわだった。
件数にして7件。各時期の精選された作例の同手品、しかも多くは組み物の揃いで、驚いてしまった。千変万化の乾山の作風・技法のアウトラインを、この7点で描けてしまうのでは。
本展の主役はあくまで蕪村と光琳で、乾山は脇役。収蔵庫には乾山焼の名品がまだまだあるのだろうし、現在進行形で増えてもいるだろう。
最初に出ていた《色絵石垣文角皿》は京都国立博物館の所蔵品と同手で、同じ5枚組。
1枚単位でもどこかに同手品はあったかしら……といったところ、いきなり5枚組でのご登場。一瞬、京博からの借用品かと思ってしまった。寸法や細部を見較べられていないけれど、もとは同じ10枚組だった可能性もある。
乾山が手本としたのは、中国・明末の「氷裂文」。会場ではご丁寧に、氷裂文の入った本歌の南京赤絵が並べて展示されていた。実物で比較できたのはありがたかった。
《色絵定家詠十二ケ月和歌花鳥図角皿》(MOA美術館などに類品)は、惜しくも2枚を欠いて10枚組。いくつかバージョンがあるとはいえ、そう出るものではない。
二条丁子屋町時代の琳派的な作例の代表格である《色絵菊文向付》(五島美術館)の同手品。五島美術館は5客で、こちらはなんと10客だ。
大阪市立東洋陶磁美術館などに同手品がある《色絵椿文輪花向付》。割に残っているほうの作例ではあるけれど、10客揃だ。
ちょうど椿の花咲く季節。群れて花をつけるあの姿を、そのままうつわにしたかのよう。《色絵菊文向付》にしてもそうだが、こうしたすぐれた自然の切り取り方は、乾山の面目躍如といったところ。
組み物が続いたあと、とどめは《銹絵染付白彩菊花文反鉢》。「反鉢(そりばち)」と呼ばれる、草木や花を立体的に表した、乾山コレクター垂涎の作例だ。
菊の花の輪郭をなす銹絵の線には、まったく迷いがない。曲面への絵付けで筆の扱いが難しいものだけれど、恐る恐る引いた線ではなく、スピード感があってリズミカル。ところどころ太くなってしまっていても、気などかけない。
作品解説では、兄・光琳による絵付けが示唆されていた。さもありなん。
そういわれれば、今回の展示のラインナップには、光琳絵付けの角皿がなかった。あのようなものがあれば、さらにすごいことになるのだろうな……と、少々ぜいたくな希望が出てきたところで、乾山の展示はおしまい。
出品作はどれも懐石のうつわだったので、「どのように料理を盛りつけてやろうか」という楽しみ方ができた。
もっとも、そんなたいそうな料理の腕なぞもってはいないのだが……空想のなかであれば、なんだって許されてしまう。
「絵心」ならぬ「料理心(ごころ)」のないわたしですらそういった感興をかきたてられるものなのだから、本職の料理人にとって、乾山のうつわがどれほど刺激に満ちたものであるかは想像に難くない。
盛りつけはともかくとして、「食べる側」としてなら、わたしもいつかぜひ参加させてもらいたいものである。
具体的な感想をたくさん述べるくらいのことは、いたしますから……
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