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市原歴史博物館の至宝:1

 市原歴史博物館のホールでは、この館を代表する3つの作品が、独立ケースに入って展示されていた。すばらしいので、ぜひご紹介したい。いずれも、やきものである。
 書画のような紙ものや漆工・金工品は材質が繊細で、展示にも注意を要する。
 いっぽうで、やきものには褪色・劣化の進む心配がなく、地震対策さえできていれば、こうしてロビーのような場所に長く置いておくこともできる。来館者としては、立体物ゆえ撮影がはかどる。やきものならではの強みといえよう。

 最初の1点は《イノシシ形土製品》(縄文晩期・能満上小貝塚  県指定文化財)。

 来館者はみな、このイノシシ目がけてスマホを構えていた。子どもたちにも大人気だろう。「つかみはOK」である。わたしもパチリ。

胴体と左右の後脚は、それぞれ近くの別の住居跡から見つかった。前脚は、行方不明
やっぱり、この角度から撮りたくなる

 縄目の文様が、イノシシのツヤのある毛並みをよく表している。縦横に入れられた深い溝は、縄で縛った跡か、なにか呪術的な意味合いがあるのだろうか。
 表情は……思いのほか、ほっこり。安らかな笑みをたたえた、幸福度の高そうなイノシシさんである。「微笑んでいるようにみえるのは、市原市内出土品の共通した特徴」(市原市埋蔵文化財調査センターのページより)とのこと。
 他の作例がどんなものか、気になったので調べてみた。西広貝塚の出土品は、こちらのページの8枚めにみることができる。同じく、笑みを浮かべている。

 ショップでは、イノシシの3Dデータを活用したキーホルダーやマグネットが販売されていた。カラーリングは、蛍光の各色である。
 後者のマグネットは、胴体の前後で2分割され、それぞれの断面に磁石がついているという代物。つまり上の2枚めの状態と、お尻側からの状態の2つがそれぞれくっついているという至極シュールな光景が、わが家の冷蔵庫のドアで実現できるのだ。発想のやわらかさに感嘆。

 続いて、《人面付土器》(弥生時代中期・三嶋台遺跡出土  市指定文化財)。

 イノシシと同じくこちらの顔も、なんとも朴訥とした表情。ぼけーっと、口を開けっぱなしにしている。
 こういった、袋物の口部に人面の装飾がついた土器は全国的にみても稀少なものだが、本作は頭部が占める割合が大きく、「壺の口に顔がついた」というよりは「器全体で人間の身体を表した」との表現がより近そうだ。
 そんなことを考えていると、洋梨型の体型をした相撲取りにみえてきた。こちらは弥生土器だが、古墳時代には相撲取りといわれる埴輪もあったから、あながち的外れでもないかもしれない。大相撲九州場所も佳境である。ごっつぁんです。

 さらに珍しいのは、手がついていること。この位置にでっぱりが貼りつけられていると、つい「耳」と呼んでしまうものだけれど、これは紛うことなき「手」だろう。手の存在も「器全体で人間の身体を表した」感を補強している。
 用途としては、蔵骨器の可能性が示唆されている。相撲取りかどうかはともかく、壺が故人の身体そのものを表しているとすれば、その内部に骨を納めるのは自然な行為に思える。骨は身体の内側にあり、外からは見えない。すなわち、骨が壺に入れば、同じ状態になるからだ。

 ——かような背景の壺ではあるが、造形として愛すべき魅力をもっているのは確かだろう。
 館では、出土地の三嶋台遺跡にちなんで「みしまくん」という愛称をつけており、さまざまにグッズ展開している。3Dデータによるレプリカは、PR活動で大車輪の働き。

 これからの季節は、こちら。イノシシも共演している。なかよし。


 ——イノシシにみしま、どちらも珍品でキャッチーで、新しいミュージアムの目玉作品にふさわしいといえよう。
 残る独立ケースに入ったもうひとつの目玉作品は、「よさ」の方向性が少し異なる。
 とびきり、美しい作品である。
 (つづく


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