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美術館のついでの楽しみ:2

承前

■腰掛ける楽しみ① 東京国立近代美術館工芸館
 「椅子」も美術館の見所のひとつだ。
 作品やハコモノに気をとられて見逃がしがちだけれど、こだわりの建築をもつ館には、こだわりのインテリアが備えられているもの。ロビーや館内に名作椅子がさりげなく置かれ、実用に供されている光景をしばしば目にする。キャプションこそない場合が多いが、これも立派な「館蔵品」だろう。
 キャプションつきでれっきとした館蔵品でありながら、現役の椅子となっている例もある。
 東京国立近代美術館工芸館の階段を上がった2階ロビーには、黒田辰秋の長椅子が置かれていた。

 本歌であるところのイギリスあたりの椅子と同じく、座面は深く、今出来の椅子に比べるとかなりゆったりとしたつくり。重厚な素材感も相まって、包容力がある。この椅子に腰を掛け、肘掛けや花の彫り文を撫でまわしながら憩う時間は至福だった。金沢への移転後は、どうなっただろうか……

※リンクを見ると「出光美術館寄贈」となっている。そうだったんだ……


腰掛ける楽しみ② 埼玉県立近代美術館、富山県美術館
 埼玉県立近代美術館は「椅子の美術館」を自称し、モダンデザインの名作椅子の収蔵に力を入れている。
 これらの椅子はガラスケース越しに展示されるだけでなく、じっさいに腰を掛け、座り心地を体感できるようになっている。座れる椅子は随時入れ替えられているが、この館はなにかと痒いところに手が届くところで、ホームページで「今日座れる椅子」を紹介してくれている。展示に足を運ぶ前には、かならずこのページをチェックしている。
 富山県美術館でも、同じような取り組みをおこなっている。


腰掛ける楽しみ③ パナソニック汐留美術館
 腰掛ける楽しみといえば、極めつけはトイレである。
 パナソニック汐留美術館は、絵画、工芸、建築のジャンルを横断した多彩な展覧会をバランスよく展開しており、頻繁に訪れる美術館のひとつ。
 汐留のパナソニックのビル内の一角にあり、1階のリノベーションのショールームをまわるのも楽しいのだが、2階のトイレがとてもよい。
 ここでは、パナソニック電工による最新鋭の温水洗浄便座が体験できるのだ(「ウォシュレット」は競合他社・TOTOの商標とのこと)。
 もはや美術鑑賞とはまったく関係がないが、最先端の技術に肌で触れる楽しみを意外な形で得ることができる稀有な付帯施設(?)である。


 プラスアルファのところも含めて美術館は楽しいし、案外、そのプラスアルファが後押しになって、行くか行くまいか迷っていた展示に行く気になったりもするものである。
 他にもあれば、折を見て紹介してみたい。


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