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切紙 ~東北地方の正月飾りを中心に~:1 /紙の博物館
神社や神棚に、和紙を切ってつくったひらひらの飾りがあるのを見た記憶はないだろうか。
こういったものを供えたり、神事に用いたりする風習は、日本各地に伝わっている。
簡易なものとしては神職が手にする「御幣」が挙げられるが、より複雑な技巧が凝らされた「伝承切り紙」が、岩手県から宮城県にかけての三陸沿岸を中心としたエリアではひっそりと受け継がれてきた。
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これら「東北の伝承切り紙」については、房総在住の千葉惣次さんが人形師のかたわらライフワークとして研究を重ね、近年にわかに知られるようになった。
千葉さんの著書『東北の伝承切り紙』(平凡社、2012年)では、古美術の撮影でおなじみのカメラマン・大屋孝雄さんの美しい写真で、さまざまな切り紙が掲載されている。作例を集めて記録するため、千葉さんと大屋さんは、まだ見ぬ切り紙を求めて三陸を何度もまわったそうだ。
この本を機に、切り紙に関連する展示が首都圏でもときおり催されるようになった。出版の前年には東日本大震災が起こっている。切り紙の分布は津波で甚大な被害を受けた地域とちょうど重なり、この土地に対する世間的な関心が高まったことも背景にはあろう。
2014年に多摩美術大学美術館で開かれた「東北のオカザリ ―神宿りの紙飾り―」は、千葉さんと大屋さんの活動の集大成。照明を落とした展示室で、いくつもの切り紙が天井から吊るされるさまは、圧巻のひと言。とてもよい展示であった。
千葉さんが注目するまで、こういった切り紙はその地域の人にとって日常のひとコマであり、当たり前すぎて気にも掛けないような存在だった。
それが、他の地域の人からすれば、こんなにも新鮮に映る。地域性や風習・慣習といったものは、ほんとうにおもしろいものである。
飛鳥山にある「紙の博物館」で東北の伝承切り紙がまとめて展示されると聞き、行ってきた。撮影可能だったので、写真もいくつか掲載しながら紹介してみたい。(つづく)
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