下総龍角寺:1 /早稲田大学會津八一記念博物館
龍角寺は、千葉県印旛郡栄町にある寺院。成田空港の北西に位置し、茨城との県境も近い。
神社でいう「村の鎮守」といった趣きの小さな寺ではあるものの、古代には関東の地に早い時期に仏法の花を咲かせた大寺であった。
境内に散在する礎石と、収蔵庫に鎮座する重文の白鳳仏が、わずかに過去の栄華をとどめている。
龍角寺に関してはもうひとつ、触れておくべきことがある。
寺の周辺一帯に広く分布する、おびただしい数の古墳群についてである。
古墳群は、6世紀前半から7世紀にかけて築造された。
龍角寺は奈良時代の和銅2年(709)創建との伝があって、古瓦などの出土遺物、ご本尊の薬師如来像の制作時期とも矛盾しない。
終末期古墳が築かれたーーすなわち、古墳がつくられなくなっていった時期と寺の創建は、かなり近いのだ。
この頃、仏教の浸透により葬送儀礼・供養の方法に変化がみられ、人を葬る場は古墳から寺院へと移行していったのである。
古墳と寺院が同じ場所で、ごく近接する時期に築かれた転換期の好事例として、龍角寺の名は古代史や考古学の分野ではつとに知られている。
とはいっても、龍角寺といわれてピンと来る人が、一般的にどれほどいるだろう。しかも、千葉県内の展示施設ならばともかく、早稲田の博物館で龍角寺展とは……意外だった。
聞けば、早稲田大学は、この周辺の発掘調査に継続的に取り組んできたのだという。研究と資料の蓄積があって、本展が実現した。(つづく)