北斎と肉筆浮世絵の美―氏家浮世絵コレクションー:1 /鎌倉国宝館
中世の古都・鎌倉には、肉筆浮世絵オンリーの稀有なコレクションがあって、鎌倉国宝館でたまに公開されている。
そのことは把握していたが、これまで拝見する機会には恵まれなかった。
というか、正確にいえば「鎌倉に来て、鎌倉らしからぬものを観るのはこれいかに……?」といった妙な引け目があって、踏ん切りがつかなかったのだ。
鎌倉に来たならば、鎌倉時代を感じさせるスポットを優先的に巡りたいのが人情。同じ美人画でも、晩年を鎌倉で過ごした鏑木清方の絵ならば妥当な感じだけれども、鎌倉で江戸の浮世絵ってのもなぁ……といった胸の内だったのである。
訪問の決め手となったのは、勝川春章の作が出ることと、駅前の吉兆庵美術館で開催されていた「生誕140年記念 北大路魯山人-高級料亭「星岡茶寮」を訪ねて-」の存在だった。魯山人のほうはさほど広くないはずだから、同じく小規模の鎌倉国宝館と組み合わせるのはよさそうだ。
今回はあっさり、すんなり足が向いた。過去の自分の、あのいぶかしみようはなんだったのか……
鶴岡八幡宮の境内にある鎌倉国宝館は、鎌倉にあまた所在する古社寺から文化財の寄託を受け、展示・公開をする施設。
フロアの3分の2ほどは、仏像を中心とした寄託品の常設展示となっている。つまり、「鎌倉らしいもの」もちゃんと観ることができた。
その奥の3分の1ほどが、企画展示のスペースである。仏像の居並ぶ展示から、間仕切りなしで肉筆浮世絵「氏家コレクション」の展示へ。聖から俗に、ひとっ飛び。
もっとも、この「俗」というのも、かなり高級な「俗」だ。肉筆浮世絵は基本的に一品制作。上流階級を受容層としており、丁寧な仕上げで、品格がたいへん高い。
まずは、その品格とやらがきわめてよく看取される、わが敬愛の勝川春章の作をお目に掛けることとしたい。《活花美人図》である。
座敷の上で、いけばなに興じる娘さん。見守る女性ふたり。お稽古ごとだろうか。
染付の筒形花入にあやめを活ける娘さんの手許は、なんだか少し危なっかしい。ちょっとした緊張感も伝わってくるが、ふたりの目線は優しく、温かい。まさに「目を細める」という感じ。
全体にやや引いた視点となっており、生活の添景を垣間見ているような心地がする。着物の柄や小道具の細かな描写ぶりも見逃せない。
MOA美術館が所蔵する名品《婦女風俗十二ケ月図》を想起させる。制作時期もそう離れてはいないはずだが、本作では妍を競うような艶めかさがなく、肩肘張らずに掛けてながめたいと思わせる一幅となっている。
浄らかで、さわやかな絵。これ1点だけで、もう満たされたような気分になってしまった。(つづく)
※鏑木清方が最もあこがれ、範とした浮世絵師は、鈴木春信と勝川春章だった。