よろこびの風 〜養蚕機織図屏風と鍋島〜:2 /東京黎明アートルーム
(承前)
東京黎明アートルームの鑑賞陶磁コレクションのなかでも、鍋島の磁器はとくに充実の分野。さらにいうならば、鍋島のなかでも “コナベ” の優品を多数所蔵する点に大きな特徴がある。
鍋島と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、おそらく下のような「盛期鍋島」の皿であろう。
一分の隙もない完璧な絵付とデザイン性をみせる盛期鍋島は、17世紀の末から18世紀初めにかけて制作された。器種は皿が圧倒的に多く、一尺、七寸、五寸、三寸と、寸法まできっかり決まっている。また木杯形といわれる形状や高台・裏の文様などにも一定の形式がある。
出品作品には、最も大きく希少性の高い色鍋島の尺皿が2点もあり(うち1点はリーフレット右下)、サントリー美術館の《色絵毘沙門亀甲文皿》《薄瑠璃地染付花文皿》の同手品や、冬の張り詰めた空気を感じさせる青磁染付の逸品(下図)までが含まれていた。盛期鍋島だけでも、たいへん充実している。
だが、やはり “コナベ” がすごい。
ここでいう “コナベ” とは「古鍋」、つまり「古鍋島」の略。盛期鍋島に先行する鍋島藩窯の初期作例を指している。
盛期鍋島が丸皿というフォーマットの上で様式美をみせるのに対し、形式が定まる前夜のコナベにはさまざまな変形皿がある。筒向(つつむこう=筒形の向付)にも佳品が多い。
絵付にははみ出しなどもあって、ややアバウト。薄瑠璃や黄色など、盛期鍋島ではあまり使われない釉がしばしば用いられるのも特徴的で、総じてある種の味が感じられる。「古」の字を冠するのが、たしかに似合うやきものだ。
※こちらの類品も。
コナベをまとめて観られる機会というのが、これまた非常に少ない。
戸栗美術館や栗田美術館のような専門館を除けば、あとは九州に飛んで佐賀県立九州陶磁文化館だとか今右衛門古陶磁美術館、伊万里・鍋島ギャラリー、田中丸コレクションあたりに当たるほかないだろう。
東京黎明アートルームでは、過去にコナベをメインにした展示を何度かおこなっていて、上記に割って入れるほど。
今回も多数のコナベが出ていたのだが……肝心の画像がほとんど出ておらず、ここでご紹介できないのは歯がゆい。
数少ない例外がこちら。チケットに採用されるなど、この館の顔ともなっている、雪輪文の小さな向付である。
雪の結晶の輪郭が、青磁釉による外隈(そとぐま)、染付の線、そして口縁の形状の3つで表されている。染付線の外側に施された濃(だ)みの高度な技術も見逃せない。
コナベは10点以上出ており、バリエーションもさまざま。非常に見ごたえがあった。
次回のやきものの展示は、古九谷だという。昨年末の柿右衛門、今回の鍋島に続いて、肥前磁器の花形を通覧していくことになる。
今度はどんな名品に出合えるだろうか。
※鍋島に関しては、伊万里駅にある「伊万里・鍋島ギャラリー」のホームページが簡潔でわかりやすい。