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呉春 -画を究め、芸に遊ぶ-:3/大和文華館
(承前)
展示の終盤には洒脱な、すっきりとした作品が並んだ。蕪村風の「こってり」感は、もうほとんどみられない。
伝統的な画題を崩してユーモラスに描く《三十六歌仙偃息図巻》と、卑近なモチーフを軽妙にとらえた《蔬菜図巻》(泉屋博古館)。どちらも、類品が数例知られている。一定の需要があって、好まれていたようだ。
【続き】呉春が栗としめじを描いた「画讃集」は後期から展示しています。現在展示中の「蔬菜図巻」(泉屋博古館蔵)に描かれたきのこや、酒宴の献立を記した「一菜会記録」(柿衞文庫蔵)と併せてご覧頂くのも一興です。#大和文華館 #呉春 #画讃集 pic.twitter.com/2oREA14uqU
— 大和文華館【公式】 (@yamatobunkakan) November 17, 2024
《蔬菜図巻》はさらさらと、まことに瀟洒な描きぶり。どの野菜もキノコも、たいへんおいしそうである……衣をつけてカラッと揚げ、天つゆと大根おろしにさっとくぐらさせて、いただきたい。
冗談(願望)はさておき、呉春には美食家としての一面が伝わっており、その事実は、本作のみずみずしい描写とけっして無関係ではないはずだ。さもありなん、な描写である。
なお、所蔵先の泉屋博古館では2018年に「フルーツ&ベジタブルズ -東アジア 蔬果図の系譜」と称する展示が開かれ、伊藤若冲《菜蟲譜》(佐野市立吉澤記念美術館 重文)との比較がなされた。
その後、今年に入って《菜蟲譜》の「菜」だけバージョンともいえる《果蔬図巻》(福田美術館)が発見、「若冲激レア展(略)」で現在お披露目中である。こちらとの比較展示も、いつか観てみたい。
食べ物シリーズ……というわけではないが、サトイモ畑を描いた《芋畑図襖》(京都国立博物館)。知ってはいても観るのは初めてで、これが、たいへんよかった。
ただ芋の葉があるだけなのだが、余白の豊かな膨張に、目をみはってしまう。
画題としては珍奇ながら、どこにでもみられる、じつにありふれた風景だ。わたしも、散歩中にみつけたくらい。
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それがこの絵になると、情緒・情感をともなって、静かにこちらへ迫ってくる——そんな、ふしぎな存在感がある。
見たそのままをただ描いたというよりは、芋を供える中秋の「芋名月」を表しているらしい。この、たっぷりの情緒。きっと、そのとおりなのだろう。
《芋畑図襖》においてすでに示されている、呉春晩年の清く澄みきった画境をさらによく物語るのが《泊船図襖》(醍醐寺 京都市指定文化財)。
こちらは「泊船図襖」(総本山醍醐寺蔵)です。墨の濃さと線の太さを巧みに使い分けて和船を描ききった晩年期の傑作です。呉春の到達点であり、筆墨表現のひとつの極といえるでしょう。#大和文華館 #呉春 #泊船図襖 pic.twitter.com/HxDY58GXqd
— 大和文華館【公式】 (@yamatobunkakan) November 20, 2024
これまた、静かで豊かな絵画世界。
ぜんっぜん関係ないはずなのだが、この絵の前に立っているとき、ふと「ポッポッポッ……」と、昔懐かしい蒸気船の作動音が、遠くのほうから聞こえてくる錯覚があった。小津安二郎『東京物語』のラストシーンである。
いや、呉春描く舟の動力源はもちろん人力であって、そんな音などしないのだけれども……なぜか、わたしのなかでは、重なるものがあった。
あすこのシーンにも港があって、モノクロームで、やっぱり「余情」にあふれているのだ。
——《泊船図襖》は、本展のトリを飾る作品であった。つまり、余情たっぷりで本展は閉幕。余情があまりに後を引いたゆえ、後期展示にやってくるモチベーションも高まったのである。
《泊船図襖》は通期展示だからよかったものの、《芋畑図襖》は前期で京博に帰ってしまった。「京博のコレクション展に出るようなことがあれば、きっと馳せ参じよう」と決意を固める、吉宗であった。
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※呉春《蔬菜図巻》が縮小レプリカに! 原品は全長8メートルあまりもあるので、こちらも相当長いだろう。
ながーーーーい巻物作りました。
— 泉屋博古館(せんおくはくこかん) (@SenOkuKyoto) October 22, 2024
こちらの呉春「蔬菜図巻」の縮小レプリカをただいま大和文華館のミュージアムショップにて先行販売しています。当館での販売開始は来年4月から。
ぜひ呉春展で展示中の本物と見比べてみてください!#ミュージアムグッズ pic.twitter.com/v0SySNdemK