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花と土、自然と人為:2 栗田宏一・須田悦弘展 /山梨県立美術館

承前

 土の質がどうの、成分がどうのという科学的なカラクリに、栗田さんが迫ることはない。自然に対して人の手を加えて「科学ふう」な手を尽くしてから、自然からきっちり隔絶された場所にそれらを整然と配置することで、自然物としての存在感を浮き彫りにしている。自然ってなんだろうと考えるよすがとしている。科学のようなもの、自然のようなもの。
 科学を人間の「技術」と置き換えると、その構図はまさに須田さんの仕事にぴたりと合致することに気づく。須田さんの場合は、朴の木の一部という紛れもない自然物をもとに、木彫の「技術」を加えてつくりものの「自然」を生み出し、それが無機質な突拍子もない場所に置かれる。人工物から、逆説的に自然の息吹が感じられるのだ。
 最後の部屋では、展示室内のどこかに須田さんの作品が複数、そっと置かれているという。どこにあるのか、答えは誰も教えてくれない。自分で探す。これは須田さんの常套手段で、正直のところこの展示に足を踏み入れてからずっと、どこに作品が隠れているのか疑心暗鬼で落ち着かなかった。猜疑心の強いわたしなのでなおさらである。たぶん、ぜんぶ見つけられたと思う。
 須田さんは栗田さんよりも7歳若く、ともに山梨県笛吹市の出身だという。地元作家の評価という点も含めつつ、作家性のきわめて近しい二人をきれいにマッチングさせた山梨県美の企画力に大拍手を送りたい。
 インスタレーションゆえ、設営後を撮影する都合から図録は絶賛予約受付中。リリースは12月23日。時期的にクリスマスプレゼントに最適!と思いきや、発送は年明けとのこと。まあ、よい。お年賀として、気長に待とう。 
 最後に。奈良県のエリアを見ていると、ラベルに「明日香村栗原」とあった。これは「明日香村粟原」の誤りであろう。「栗原」さんなのだからなるほど致し方あるまいが、かの談山神社のある地。奈良好きとしては見過ごせない。


 昨日、待望の図録が届いた。
 会場内の雰囲気を思い返しながら、紙上で再度の展覧会鑑賞。上記のように、今回は展示のようすがそのままこの図録に収録されているから、ただ作品図版をながめるよりもずっと再現性の高い紙上鑑賞ができた。と同時に、須田さんの作品がひそかに置かれていた場所の答え合わせも。「たぶん、ぜんぶ見つけられたと思う」などとさも余裕のありそうな具合で書いたのだが……3点ほど見逃しがあったようだ。赤っ恥。
 会場写真の章に続く「参考図版」と称する章では、須田さん・栗田さんの過去の代表的なインスタレーションがおおかた網羅されており、それぞれの図版の扱いも大きい。とても「参考図版」などとは呼べないほど立派な内容だ。須田さんの参考図版のラストには、こんど閉館してしまう原美術館の《此レハ飲水ニ非ズ》もしっかり掲載。これには台割を組んだ者の心憎い意図が垣間見え、思わずほくそ笑んでしまった。ほかにインタビューや読み物も充実しており、もう決定版といっていい内容だろう。180度に開くPUR製本もうれしい。
 美術出版社の編集で、印刷は色校正に定評のある地元・山梨のサンニチ印刷(山梨日日新聞の系列)。美術出版社の図録はいつも手が込んでいて見やすく美しいし、サンニチも遺憾なくそれに応えている。さすが、餅は餅屋である。
 一般書籍として書店売りもしている。本体価格2500円。

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 この記事を書いたのは半年前だが、書籍はすでに品切れで古本でしか取り扱いがないとのこと。いい本なので、おすすめです。


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