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京都 細見美術館の名品 ─琳派、若冲、ときめきの日本美術─:3 /日本橋高島屋
(承前)
昨秋の「つながる琳派スピリット 神坂雪佳」展にも出品されていた、酒井抱一《鹿楓図団扇》。
団扇の表裏に、鹿と楓が描かれている。パナソニック汐留美術館では、鹿の面のみが見える状態での展示であった。
今回は、両面が拝見できた。
見返りの鹿の面をくるりと回せば、紅葉した楓の古木が現れる。幹は太く、たくましい。葉も大きい。華奢な鹿、風に揺られる萩の片面とは好対照だ。
秋に団扇なんて使うかしら……という雑念はさておき、軸装や額装に改められず、団扇の体裁を保ってきたことに、ここは素直に感謝するとしたい。
とりどりの花卉を集めた、琳派のお家芸・四季草花図。池田孤邨《四季草花流水図屛風》もその系譜に連なるもので、群青の流水をカットインさせたところが、なんといっても特徴的。
波紋は観世水や光琳波とは異なる、墨流しに似た描写で、複雑な様相を呈している。川のせせらぎを凝視しつづけた末に、たどり着いた表現ではなかろうか。
写真で観ると横に長い大画面だが、二曲屏風である。
中央で折り、立てまわした状態では、流水のS字状のくねりや繁茂する植物の勢いが、より強く印象づけられたのだった。
琳派に続き、最終章として、伊藤若冲の作品をまとめて展示。
初期の着色画《糸瓜群虫図》では、飛んでいる白い蝶をのぞくすべてのモチーフが、糸を引くようにねっとりとからみあっている。
ヘチマには、じつにさまざまな種類の虫が群がっている。
巧みに擬態する虫の姿を探していると、細い蔓まで虫に見えてくるし、全体として、ひとつの生命体をなしているかのようにも錯覚してしまう。
どちらも、画家が意図したことに違いない。観ているこちら側まで、からめとられてしまいそうな絵である。
一昨年から年をまたいで開催された細見美術館「虫めづる日本の美」で、中心となった本作。
奇しくも、次回のサントリー美術館は「虫めづる日本の人々」。巡回ではないようだが、この展示でも《糸瓜群虫図》は観られるだろうか。
—―《糸瓜群虫図》を含め、展示されていた若冲の絵はおよそ30点。
これらは、ブームになるよりもずっと以前から、こつこつと集められてきた作品群である。
いまや、琳派と双璧をなす細見美術館の二枚看板となっており、本展でもこのふたつがメインの座を占めた。若冲めざして、細見美術館や本展を訪れる人は多いのだろう。
二枚看板の名品はもちろんのこと、それらを取っ掛かりとして、根来や茶の湯釜など、ほかの「シブめ」な作品にも触れる機会を設けている本展。
日本美術の奥深さをダイジェスト的に示す、間口も奥行きも広い展覧会であった。
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※このあと名古屋、静岡、長野に巡回