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ハロウィンと妖精行列


ライナスとハロウィン

亭主がハロウィンという言葉を知ったのは、恐らく小学生の頃、もう40年近く前のことです。
当時、NHKでPeanutsスヌーピーとチャーリーブラウンという邦題で放送されていて、その中で、ライナスがルーシーにカボチャ大王の話をする下りでハロウィンが出て来たのでした。
安心毛布を手放せないライナスは、ハロウィンの夜に、カボチャ畑から🎃大王が飛び立ち、子供たちにプレゼントを配ってくれるというお話を信じていたのです。

当時は、ハロウィンという単語を知っている人も少なかったですし、このアニメの事もあり、ハロウィンというのは、きっとアメリカのカボチャのお祭なんだろうなぁとボンヤリ思っていたのでした。

光と夜の端境期

それから妖精譚や妖精学、そしてアイルランドの風習を知るにつれ、なるほどハロウィンはカボチャの季節ではなくて、とてもとても大事な祝祭の夜だと知ることになりました。
一般的には、ハロウィンはケルトの古い収穫祭として認識されていると思いますが、それだけではありません。
収穫祭と言う認識が間違っているわけではなく、もっと多重的なお祭なのです。
アイルランドなどの西欧では、キリスト教が支配的になる前、独自の信仰、文化が花開いていました。その頃使われていた暦では、1年は2分割され、明るい季節と暗い季節分けられていたそうです。
5月1日前夜に始まった光の季節(夏)は、11月1日前夜に暗い季節(冬)に移行します。この2夜は、光と闇が入れ替わる時とされ、時間が停止し、現世と常世の境界線が曖昧になる。境界線を区切るベールが薄くなり、この世のものとあの世の者が行き来できるようになるとされたそうです。
とりわけ暗い季節がはじまる11月1日前夜は、死者の霊も戻ってくるとされ、日本でいうお盆のような雰囲気も漂っていのです。
そういう素地の上に、キリスト教のすべての聖人を祝う『万聖節』と、すべての霊魂を慰撫する『万霊節』が重ねられ、大きなお祭になっていったのです。
もちろん、収穫祭としての側面もありました。
ただ、それは農作物ではなく牧畜。つまり家畜を屠る時期とされ、農家は大騒ぎだったそうです。
この時、塩漬けにされた豚などはハムとしてクリスマスのご馳走になりました。

妖精は死者と踊る

日本で妖精と言うと、草木百花の精であったり、ティンカーベルのような可愛らしい存在をイメージしますが、アイルランドやスコットランドの伝統的な妖精譚において、彼らは妖怪に近い存在として描かれ、遠い昔の祖先の霊や、キリスト教に追いやられた古い神様たちだとされています。
彼らを区切る線は曖昧で、キッチリ分けるのは不可能だろうと多くの昔話研究家が言っています。
実際、亭主がアイルランドで色んな人に妖精について尋ねると、多くの人が死者と考えているようでした。
お話の中でも、妖精たちの行列には死者が混じっていていたり、亡くなった村の人たちと踊っているという場面が登場します。
妖精たちの多くは地下世界に住んでいるとされているので、地下の世界は死後の世界。冥王プルートが妖精王オベロンと紐付けられていたのも、こういう理由からのようです。
そう考えれば、ハロウィンに、幽霊やカボチャ大王、オバケたちが一斉に踊る夜ですから、妖精も幽霊もみんな出て来てもおかしくないですよね。

Yes and No

仮装やトリック・オア・トリートなどを楽しむハロウィンの夜。
けれど、往時は多くの人が家に籠もっていたようです。
その理由は、運が悪いと妖精や死霊の行列に出くわしてしまうから。
確かに前述のお話を振り返ると、あまり夜歩きするには都合のいい夜だとは言えませんね。

面白い話が有ります。
アイルランド西部にあるノックマという妖精王の居城だと伝わる丘に取材に行った時の事です。
バス停からも駅からも離れたノックマに向かう為、タクシーを呼びました。
気の良いくまさんと呼ぶに相応しい運転手さんは、遠い日本から来た亭主に興味津々で色んな事を訊いて、そして話してくれました。

「ノックマには妖精王伝説があるそうですけど、そういう伝説や言い伝えは今でも信じられているんですか?」
「ああ、俺の婆さんとかが色々と話してたよな。ハロウィンの夜は妖精王に謁見する為、国中の妖精が集まるから出歩くなとかな」
「そうなんですね! 今でもそういうのは守られてるんですか?」
「まさか。そんなの信じている奴はいねぇよ」
「じゃあ、ハロウィンの夜は?」
「どこにも出かけずに家で酒飲んで寝るに限るさ」

こういうやりとりは今までに何度もありました。
妖精は信じていないけど、否定もしていない。
あなたは妖精を信じていますか?と尋ねると
「Yes and No」
と返ってくるのです。
この感覚は、日本人にとっての幽霊や神仏って信じてる?の問いに対する答えに近いような気がするのです。
否定するには不確かで、信じるには曖昧な感覚。
でも、それが本音だし、本当のことなんだと思います。
そういう揺らぎが、却って彼らと妖精の近さを感じさせる光景だと亭主は思うのです。

ノックマの丘入口の看板

狐弾亭の1冊

ウォリック・ハットン (イラスト), スーザン・クーパー (著), もりおか みち (翻訳)

最近、ハロウィンに関する絵本や資料はたくさん出版されていて、この時期、本屋さんに行くと、特集コーナーが設けられていたりします。
そういう種類とは違いますが、狐弾亭がおすすめするのはこちら。
もともとはスコットランドのバラッドとして歌い語り継がれていたお話です。5月、妖魔の森として知られているカーターホーの森に踏み入った姫ジャネットは妖精騎士タムリンと出会います。
2人は恋に落ち、子供を授かるのですが、結ばれる為には妖精女王の呪いを解かねばならず、ハロウィンの夜、ジャネットには大変な試練が課されるのでした。
2人の出会いは5月の森。そして試練はハロウィンの夜。
光と闇が入れ替わる古い暦に擬えたお話ともとれる伝統的妖精譚です。
狐弾亭のブックカフェでもご用意しますので、開店、お立ち寄りの際には是非♪

狐弾亭亭主・高畑吉男🦊

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