妖精の食べ物
妖精の食べ物は?
妖精たちはなにを食べているの?
とても素朴な質問で、恐らくたくさんの人が興味ある事柄だと思います。
亭主も妖精に魅入られた頃、とても興味がありました。
お花の蜜? 花粉を固めたクッキー? 清らかなお水?
昔読んだ、マイバースデイ別冊の妖精の本にそんなことをが書かれていた気がします。
確かに、小さくて可愛らしい彼らにはピッタリですよね。
でも食べちゃ駄目?
では、伝統的なお話や伝承ではどうだったかというと、彼らの食べ物を口にしてはならないのというが絶対的なルールでした。
これは日本の伊弉諾伊弉冉の事例と同じで、妖精の食べ物を口にすると、彼らの虜になってしまうとか、人間の世界に戻って来られなくなると言われていたのです。
あるお話では、妖精の踊りに紛れ込んだ農夫が、亡くなった筈の初恋の人が下働きとして彼らに使えているのを見つけます。聞けば、彼女は昔妖精の果樹園で黄金の実を食べてしまい、以来、妖精たちの下女として捕らわれてしまったのだとか。
妖精界の食べ物は素晴らしく美味しく、人間はその誘惑に抗えないと言いますが、だからといって二度と人間の世界に戻れなくなって、ずっと彼らの囚われ人にされるのは困りものです(だって彼らは何百年も生きるのですから!)。
先だってお話しした正直トマスも、妖精女王からの賜り物として妖精のリンゴを口にして、妖精界に連れて行かれましたしね🍎
え? そんなものを食べるの?
ただ妖精の食べ物は、見た目も香りも素晴らしいのですが、実際はとんでもないものだとも伝えられています。
ある司祭が招かれた妖精王の宴席に並んでいた料理は、その実、木の葉だったと言いますし、スコットランドの伝承では、イグサの茎や大麦のあらびき粉が原料になっていたとか。
それに、17世紀の詩人が歌うには、蝶の触覚に、スミレの露、ホコリタケのプティングネズミの髭や、イモリの脚を食べるのだとか。うーん、遠慮したいですね。
民話での彼らの食べ物
もちろん、そういうグロテスクなものは伝承をベースにしながらも詩人の想像力の産物でして、民話などでは危険なものとされつつも、素晴らしく美味なものとされてきました。
とても珍しいお話ですが、妖精のスコップを直してあげた農夫は、お礼として小さなケーキを貰ったそうです。周囲の人たちは食べない方が良いと言ったそうですが、実際はとても美味で、何の害も無かったと言います。
恩には恩で、非礼には非礼で返す彼ららしいお話です。
往々にして、妖精たちの食べ物を勝手に盗んだりした人たちに罰が下されるのであって、お礼として渡されたものには基本的には害は無いのが通例なのです。
往時の人たちの夢
民話というものは、それが本ではなく、口伝えとして暖炉の前などで語られていた時代の人たちの思いが色濃く反映されています。
その中には、浮き出ているのか、潜んでいるのかの違いがあったとしても、憧れや憤り、そこに生きた人たちの生々しい思いもこもっています。
とりわけ妖精という存在は、彼岸への憧れや、救世の英雄たちへの願いが少し色や形を変質させて宿っていることがあります。
食べ物も、その好例で、貧しかった農夫たち、いつもお腹を空かせていた子供たち、我が子に満足に料理を与えて上げられなかった親たちの想いが込められていることもあるのです。
素晴らしく美味しい食べ物が並んでいる。けれど、それは実はまやかしで食べてはいけないんだよ?
アイルランドの民話には、イギリス占領下の世相が反映されているものも沢山あります。ジャガイモ飢饉や独立戦争の燻りが感じられるものも。
お話というレンズを通して、往時の人たちの憧れや生活が垣間見られるのも、民話の良いところです。
茹でただけのジャガイモを常とし、僅かばかりの干し魚がご馳走だった往時の人たちの思い描いた妖精たちの食卓は、たまらなく魅力的な物だったに違いありません。
狐弾亭の1冊
魔法のルビーの指輪 朔北社
アイルランドに住む勝ち気な少女ルーシーは、11才の誕生日を前にしてお婆さんからスタールビーの指輪を贈られます。それは代々娘にだけ伝えられる宝物でした。
それだけでも素晴らしい宝物なのですが、なんとルビーには秘められた力があったのです……。
詳しい内容は割愛しますが、読めば往時のアイルランドの生活がどんなものだったのか、そして貴族と農民の光と影が豊かな筆致で描かれています。
もちろん児童小説らしい希望とハラハラも一杯詰め込まれています。
こちらは古書ではなく新刊本ですが、ご縁があって深山まや氏から狐弾亭亭主に寄贈して頂きました。深山さん、ありがとうございます!
狐弾亭亭主・高畑吉男🦊
お知らせ
妖精譚の語り部としての亭主のお仕事のお知らせです。
11月17日に東京都、日野にあるClare home and gardenにて古楽ハープ奏者渋川美香里さんとお話会を開催します。
100坪以上のお庭を有する洋館で暖炉の火を囲みつつ開催するお話会です。
是非この機会に、すてきな音楽と物語をご一緒に。
お問合せ、お申し込みはこちらから🦊
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