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ブレイク間近? 湊川隧道

 隧道(ずいどう)。簡単に言えば「トンネル」です。私ことド・ローカルが住む神戸で誇れるレガシーの1つに、日本最古の河川トンネル「湊川隧道」があります。新聞の取材では何度も取り上げたことはあるのですが、この素晴らしさをnoteのフォロワーさんにも伝えたいと思い、今回のテーマにしました。
 映画上映やコンサート、純米酒の貯蔵場所としても利用されているほか、昨今ではカレーやTシャツ、手ぬぐい、ノートなども登場。ブレイク間近の様相なんです。その活動を支えるのが地元住民らでつくる「湊川隧道部」です。新たな活用方法を模索する同部の活動をまとめました。

湊川隧道カレー 兵庫区の住民グループと商店主 産業遺産とコラボ 新商品続々


ご飯の山にトンネルを掘る「湊川隧道カレー」。写真用に盛り付けてもらったが、トンネル開通は簡単ではない=神戸市兵庫区東山町4

 ちまたでは、ご飯をダム、カレーをダム湖に見立てた「ダムカレー」が人気という。では、ご飯を神戸の会下山(えげやま)、カレーを新湊川に見立てると何になる? 答えは「湊川隧道(ずいどう)カレー」―。神戸市兵庫区にある日本初の近代河川トンネル「湊川隧道」の新たな活用法を模索するグループ「湊川隧道部」が、オリジナルの食べ物や品物を地元の商店などと共同開発した。昨年11月に開いた1日限定のカフェで10点をお披露目。ご飯の山をスプーンで掘ってトンネルを開通させるカレーライスや、同市の小学生が愛用する「神戸ノート」の湊川隧道版などが好評だった。

 湊川隧道部は、産業遺産写真家の前畑温子さんを部長、まちづくりPRプランナーの西島陽子さんを副部長とするメンバー8人で一昨年5月に結成。地域住民主体の「湊川隧道保存友の会」と連携しながら活性化に取り組む。
 友の会は見学会を毎月開くなどして保存・活用を続けるが「これまではせっかく訪れてもらっても隧道にちなんだお土産がなかった」と前畑さん。「ここにしかないグルメや親しみやすいグッズがあれば、より広く興味を持たれる」と考え、商品企画を始めた。

▼Tシャツ・手ぬぐい

 まず着手したのは、さまざまな商品に使えて広告塔にもなるロゴ作り。マニア心をくすぐるデザインに定評がある東京のブランド「マニアパレル」に頼んだ。
 そして生まれたキャラクターが「湊川隧道くん」。シンプルながら馬蹄(ばてい)形の隧道や照明、切石を敷いた底部の「インバート」がしっかり描かれ、奥にかわいらしい顔がのぞく絵柄だ。Tシャツや手ぬぐい、ステッカーに採用した。
 ちなみに読み方は、ひと続きにではなく「湊川」が姓、「隧道」が名となるアクセントで発音するのが正しいという。

(2023年1月14日付神戸新聞朝刊)
掘って味わえ日本初の近代河川トンネル「湊川隧道くん」をあしらったパンや菓子。れんがに見立てた生チョコもゆるキャラ「湊川隧道くん」

 ▼1日限定カフェ
 土木マニアに人気のダムカレーにヒントを得て前畑さんと西島さんが考えたのは湊川隧道カレー。神戸・湊川と新開地にカレー店「インド亭」を構える平野慎司さんが協力した。
 メインの皿には、ご飯の山と、隧道底部のインバートに見立てたフライドポテト、付け合わせを盛り付け、カレーソースは別皿で提供。スコップの形をしたスプーンでご飯にトンネルを掘り、開通したらカレーの川を流し込む。
 この「工事」が、簡単そうでうまくいかない。昨年11月26日にマルシン市場(神戸市兵庫区)内で開いた1日限定の「湊川隧道カフェ」では、注文した約30人のうち、開通させられたのは1割ほどだった。日本ダム協会から「ダムマイスター」に任命されている明石市の今井国男さん(50)は見事に成功。「各地のダムカレーと比べて本格派のカレーで、驚きました」と味にも満足していた。

▼神戸っ子におなじみ

 神戸っ子にはおなじみのB5判学習帳「神戸ノート」で知られる神戸市長田区の「関西ノート」とコラボし、方眼ノートを作った。
 表紙には隧道内部、裏表紙には下流側坑門の写真をあしらい、それぞれの裏には隧道の説明や図解を掲載。絵は、東山商店街で佐藤紙店を営む隧道部員の佐藤典和さん(52)が描いた。
 菓子工房「ecca(エッカ)」(同市兵庫区)は、れんがに見立てた生チョコレートを製作。大小10個のチョコを隧道側壁の「イギリス積み」のように配置した。一部切り口が斜めのれんがもマニアックに再現している。ロゴを基にしたクッキーにも職人技が光る。パン店「HanaPan(ハナパン)」(同市兵庫区)はクリーム部分にロゴの顔を描いたコロネを作った。
 ほかに、土鍋でコーヒーを自家焙煎(ばいせん)する「テントコーヒー」(同市兵庫区)によるブレンドコーヒーや、茶葉販売店「くわの園」(同市兵庫区)のほうじ茶も。
 前畑さんは「産業遺産は地域の人に宝物と思われてこそ残す意味がある。知ってもらい、好きになってもらうために、いい商品ができた」と胸を張る。今後、隧道内部を公開する月例の催しなどに合わせて販売していくという。

(2023年1月14日付神戸新聞朝刊)
「神戸ノート」とコラボした湊川隧道学習帳

純米酒初蔵出し 「隧 ZUI」 温度が12~15度で一定 すっきり深みある味わい

湊川隧道で半年間貯蔵した純米酒「兵庫湊川隧道貯蔵酒『隧 ZUI』」=神戸市兵庫区湊川町9

 「湊川隧道(ずいどう)」(神戸市兵庫区湊川町9)で、約半年間貯蔵した純米酒「兵庫湊川隧道貯蔵酒『隧 ZUI』」が、初蔵出しされた。地元の企業や酒造会社の関係者ら約30人が集まり、祝福した。

 2017年、神戸港の開港150年に合わせて隧道内で貯蔵した純米酒約1500本を初めて販売。瞬く間に完売する人気ぶりだったことから、海運会社「早駒運輸」(同市中央区)や灘五郷の酒造会社「神戸酒心館」(同市東灘区)、地元の「湊川隧道保存友の会」などが連携協定を結び、20年から「隧 ZUI」を醸造している。
 1901(明治34)年に完成した湊川隧道の中は、温度が12~15度に保たれている。そこで作った酒は、すっきりと深みのある味わいが特徴だという。
 2024年には、隧道内で5年間貯蔵した純米酒と純米吟醸酒の一升瓶計234本を市場に出すことも計画している。
 

(2022年11月2日神戸新聞朝刊)

幻想的 トンネルでアニメ映画2作品 レンガの壁に映写

湊川隧道の中でレンガに映し出されたスクリーンに見入る親子ら=神戸市兵庫区湊川町9

 神戸市兵庫区の「湊川隧道(ずいどう)」で20日、ユニークな「トンネル映画上映会」が開かれた。子どもらを対象にした夏休みイベント。外気との温度差で霧が立ちこめる幻想的な空間の中、児童ら35人と保護者ら21人が、壁面のレンガに映し出された映像に見入った。

 開催は2回目。子どもたちの記憶に残る特別な体験をしてもらおうと、兵庫駅南公園こどもフェスタ実行委員会が主催した。
 湊川隧道は、氾濫を繰り返す旧湊川の流路を変えるために1901(明治34)年につくられた日本初の河川トンネル。全長約600メートル。幅約7.3メートル、高さ約7.6メートル。当時、世界最大級の河川トンネルといわれ、3年前に国有形文化財に登録された。
 この日、上映されたのはストップモーションアニメの「眠れない夜の月」と「ノーマン・ザ・スノーマン~流れ星のふる夜に~」の2作品。いずれも少年が主人公の冒険物語だ。
 ストップモーションアニメは、セットに置いた人形を少しずつ動かして撮った写真を約15枚つなげて、やっと1秒の映像ができあがる。手間暇をかけて創作する手法は、のみ、つるはしなどで掘り、約2キロのレンガ約450万個を手で積んで造成した湊川隧道と重なる。
 作品を選んだ共催者の湊川隧道部は、「トンネル内で上映することで、冒険に来るような気持ちを感じてもらえたらうれしい」とこだわりを話した
。 

(2022年8月29日付神戸新聞朝刊)

歴史遺産に響き合う音色 湊川隧道の演奏会2万人達成

重厚なトンネル内に響く美しいハーモニーが、多くの聴衆を魅了した=湊川隧道

 日本初の近代河川トンネル「湊川隧道(ずいどう)」(神戸市兵庫区―長田区)で催されるコンサートが、開始16年目で来場者2万人に達した。照明にれんがのアーチが浮かび、地下水も滴る幻想的な〝音楽舞台〟で、聴衆が節目の調べを堪能していた。

 湊川隧道は、氾濫を繰り返す湊川の流路を変えるため、地元実業家らの出資会社が会下山を掘り、1901年に完成させた。長さ約600メートル、高さ約7・7メートルで、当時は世界最大規模だった。阪神・淡路大震災で一部が崩壊し、2000年から新トンネルにその役目を譲っている。
 土木遺産の価値を伝えようと、「湊川隧道保存友の会」が一般公開し、03年からはコンサートを企画。この日は、弦楽四重奏グループが震災復興応援ソング「花は咲く」や映画音楽など11曲を披露した。

(2019年4月21日神戸新聞朝刊)

〝地域の宝〟起爆剤に

通り抜けツアーの参加者に説明を行う湊川隧道保存友の会の西海伸行さん(左)=湊川隧道

 「20年ほど前まで、ここには川が流れていました」
 神戸市兵庫区湊川町にある日本最古の河川トンネル「湊川隧道(ずいどう)」。年に1度(11月)、県主催で実施される通り抜けツアーの参加者を前に、ガイド役を務める「湊川隧道保存友の会」の西海伸行さんが説明する。

 幾度も水害を引き起こした「旧湊川」の治水策として1901(明治34)年に建設された。全長約600メートル。アーチ状の内壁には450万個以上のレンガが使われている。「全て手掘りの大事業で、当時は世界最大規模を誇ったそうです」。参加者らは西海さんの話を熱心に聞き入った。
 隣に新湊川トンネルが完成した2000年、隧道は、役目を終えた。同時に、近代土木遺産を後世に伝えていこうと、地元住民らが同会(現会員約120人)を結成。通り抜けツアーのガイドのほか、毎月1回、ジャズやクラシックなどの演奏会を開いている。
 17年にNHKの「ブラタモリ」で放送されると一躍全国区に。「まちづくりに生かすチャンス」と、同会は産業遺産ツアーを手掛けるNPO法人と連携し、新開地や東山商店街なども巡るまち歩きを練る。最近では映画やアニメ、ゲームの製作者らに注目され、「神戸クリエーターズツアー」のコースに選ばれた。昨年、国の登録有形文化財に答申された。同会メンバーの前畑温子さんは「地域の宝である隧道を核に兵庫区を盛り上げ、国内外の人に愛されるまちづくりを進めたい」と力を込める。

(2019年1月9日神戸新聞朝刊)

<ド・ローカル>
 1993年入社。湊川隧道の何に心動かされるのでしょうか。いつも考えます。れんが造りのトンネル? 普段は立ち入れない非日常空間? それとも神戸開港後の近代化や現代の発展にまつわる産業遺産群だからなのでしょうか。とにもかくにも、日本最古の産業遺産が、時空を超え、現在そして未来の新たな観光資源として脚光を浴びることを応援していきます。

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