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【デザインには機能がある】シーラカンス食堂の小林新也さん(ミライ経営塾Wondersメンター紹介①)

2021年7月30日のキックオフセミナーよりはじまった「ミライ経営塾Wonders」。本プロジェクトは3名のメンターと12の神戸市内の企業が、デザイン経営の視点で事業成長を目指す実践型のプロジェクトです。


 今回は兵庫県小野市出身の合同会社シーラカンス食堂の小林新也(こばやししんや)さんのご紹介です。

シーラカンス小林さん 写真

神戸新聞:キックオフセミナーでおはなしされていた「デザインとアートの違いは“機能があるかないか”」が印象に残りました。

小林さん:ただカタチや色があるだけではなく、使い手にとっての適切な機能があるということが今回のミライ経営塾Wondersの参加者にも伝わっていればと思います。「デザイン」ということばのイメージ自体が広すぎるので、共通認識を持てるよう配慮しました。

これまでの経験上、「クリエイティブなこと」をひとくくりにとらえてしまい、「デザイン」とはどういうものであるのかがわからない人も実際にいらっしゃいました。なかには「かっこいいものをつくれば売れるんでしょ?」と単なる見た目の問題と認識されている方や、「デザイナーって“マンガ”描く人?」というように、絵を描いたり色を決めたりするイメージでとらえている方もいましたし、ファッションのイメージが先行している方もいらっしゃいましたね。意図なく“テキトー”に高さや角度を決めてモノを作ることは実際のプロダクト制作においてはむしろ不可能です。

このミライ経営塾Wonder9月の基礎講座では、セミナーでお伝えしたようなことを実際の経験をもってして理解できるようなワークショップを実施しました。このワークショップを通じて実際にデザインができるようになる人があらわれたり、「デザインって大事やな」と思っていただける方が増えれば幸いです。

神戸新聞:これまでにもワークショップを実施されることはありましたか?

小林さん:はい、各地で様々な方と実施しました。なかには先ほどお話ししたような「デザイン」や「デザイン経営」に全く縁のない方向けに実施することもありました。参加人数がとても多かったこともありましたね。性別もバラバラなうえに、学生さんから年配の方まで年齢幅もひろく、おまけに業種業界までバラバラ!共通言語がなさすぎて困りました。

できるだけ誰にでもわかるように、若者やクリエイティブ業界の方が使うような一部の人にしか伝わらない“カタカナの言葉”を使わずに伝えたりすることを意識しました。結果的にちゃんと全員がロジカルにデザインのことを考え、全員がきちんとプレゼンができたのでとてもおもしろい経験でした。

今回のワークショップで最後にチームごとにアイディアを絵にした(見える化させる)のも、「デザインのロジックを経験してもらう」ということに主眼を置いたためです。

神戸新聞:9月8日の基礎講座も、ターゲットを定めたうえでターゲットに合わせた機能をデザインしていく過程がとてもおもしろかったです。「実際に動く」とか「経験する」ということを重要視されているように感じましたが、そういう考えにいたるようなきっかけ等ありましたか?

小林さん:普段、さまざまなプロジェクトで実際に経験していくなかで次第にそういう考えに至ったと思います。

これまで数々の地場産業と関わってきた経験上ご高齢な方が多く、伝える工夫に労をかけたことも多かったのですが、(より世代の近い)自分の親世代にでさえ何か伝えることが難しいなと感じることも実際にありました。高校生のころ父に「デザインを学びたい」と伝えるだけでも大喧嘩しました(笑)

父は「デザイン」のことを「絵を描くこと」と考えていたので、父が好きな車を例にデザインとは何かを説明しましたね。身の回りのモノで「デザイン」されていないものなんて存在しないと思いますし、だからこそデザインをする過程・プロセスが大事だと思っています。

神戸新聞:なぜプロセスが大事なのでしょうか?

小林さん:それはとりあえず何かは作れてしまうからです。どうせ作るなら誰かのためになるものや、社会のためになるものを作って売れた方がいいですよね。それをするには前回のセミナーでもお伝えしたように、まずデザインの根幹の「想い」を大切にします。「うちは家族経営で~」とか「だからどのくらい売り上げたい」等の「そもそも」の部分でもありますね。
 なぜそれをしたいのか、なぜその会社をやっているのかという想いを大切にしています。もちろん現実問題の部分で会社形態や規模感とかも関係してくると思います。そうした想いを土台にするから、「赤ちゃんに向けて」「おじいちゃんに向けて」などのターゲットを考えると必然的にデザインが変わります。おじいちゃんにとって使いやすいものが必ずしも赤ちゃんにも使いやすいなんて限らないからです。

神戸新聞:セミナーでご紹介された小林さんが立ち上げられた「MUJUN(むじゅん)」のブランドの事例も、「職人を長い年月をかけて一人前に育てる」という職人さんの責任感・想いや「日本の文化のサステイナブル性」を求める海外ニーズについて、順を追って説明されていましたね。

小林さん:そうですね。つまりターゲットによってデザインの組み立て方が異なっている。こういうことをロジックで進めていくものがデザインであると考えています。脈絡なく突然ポーンってふってきた!というものではないですから。

神戸新聞:たしかに。同じ兵庫県の伝統産業であっても、播州刃物と播州そろばんでまったく異なる考え方や事例を(セミナーで)ご紹介されていましたね。

▲播州そろばんの事例について課題からの一連のストーリーはこちら

小林さん:はい。こうした根幹部分やターゲット設定からデザインが導き出され、それらに続くアクションの部分が「販路」であると考えます。ターゲットが定まるからこそ販路や告知も変わる。若い人だったら感覚的に「インスタよりもTwitterの方があっているかも」という肌感覚があるかもしれませんが、そういうものをちゃんとロジカルに考え設計することが大切だと考えています。

シーラカンス食堂

▲2021年9月8日の基礎講座より抜粋(シーラカンス食堂提供)

神戸新聞:なるほど。私自身この「ミライ経営塾Wonders」にかかわるまでは「身の回りのものがすべてデザインされている」なんて意識すらなかったのですが、人の行動にあわせた商品や、商品によって人の行動がかわったりするような事例を実際に商品を見たり、お話聞かせていただいたりで腑に落ちたような気がします。
 実際に兵庫県内でとりくまれた播州刃物職人との「富士山ナイフ」、実際にどのくらい売れているかお教えいただけませんか。

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小林さん:この富士山ナイフは職人の技術鍛錬の時間を確保するため月の半分しか生産しないというルールがあるのですが、現状作った分がすべて売れている状況です。反響も大きく、予約が1年分くらいは埋まっています。オーストラリア、カナダやアメリカ等の北米、ヨーロッパなど、世界中に卸しています。圧倒的にフランスでの売上や反響が大きいです。

このとりくみ自体かなり特殊なデザインの考え方を用いた事例になるのですが、「職人育成を兼ねて、早々に収益をあげながら、刃物製造の練習になる」プロダクトをつくろうという試みでした。商品が売れても職人が育たなければ本末転倒なので、商品自体のデザインのみならず生産日数の制限など総合的に考えています

また、これまでの販路開拓の経験から日本の刃物は海外で絶対に売れると思い、ターゲットを海外に設定しました。海外をターゲットにするからこそ機能や意匠の部分を富士山にしました。

神戸新聞:具体的にどんな「機能」をつけたのですか?

小林さん:ボトルオープナーをつけました。最近でこそキャンプやテントサウナでおしゃれな瓶のお酒を開けるシーンが増えたりもしていますが、当時、日本をターゲットにしていたらあまり必要とされない機能ですよね。

この富士山ナイフの売れ行きと生産状況を鑑みると、職人を育て、増やしていくことも考えられます。

神戸新聞:セミナーでもほかのデザイン事務所との違いとして「“売る”というところにまで食い込んで責任をもってとりくむこと」を強調され、世界中の展示会や小売店さんに地道でかなり積極的な営業活動されているとお聞きしましたので、とても説得力が感じられました。しかも、売れることによって雇用が生まれる可能性にもつながるのですね。兵庫県の播磨エリア、特に小野や三木は「播州刃物」の産業の地でもあるので、商品自体が魅力的ということにとどまらず、地場の産業がちゃんと恒常的に活気づくような商品づくりとなっていてとてもおもしろい事例だと思いました。

また、各企業のそもそもの部分や「想い」を大切にすることをなによりの土台として、伝える相手にあわせて適切に「デザイン」をする。こういった姿勢が商品のカタチや色に導き出されてあらわれていると考えると、これから身の回りの商品やモノを見る目が変わるなと思いました。

今日は、小林さんお時間いただきありがとうございました。引き続き「ミライ経営塾Wonders」プロジェクトでよろしくお願いいたします!

(聞き手:神戸新聞社メディアビジネス局 三宅 鄭)

小林 新也 / Shinya Kobayashi
○ 合同会社シーラカンス食堂 / MUJUN 代表社員・クリエイティブディレクター・デザイナー
○ 株式会社OneGreen 代表取締役・チーフデザインオフィサー
1987年、兵庫県小野市、表具店に生まれる。2010年、大阪芸術大学デザイン学科卒業。2011年、イノベーションデザインを行う「合同会社シーラカンス食堂」を地元の兵庫県小野市に設立。播州刃物や播州そろばん、石州和紙、石州瓦、京都の伝統工芸品などの商品や技術、販路や伝え方、意識のイノベーションに取り組み生産者が抱える問題解決に取り組んでいる。特にグローバルとローカルを行き来した視点で持続可能なものづくりを目指している。2016年、オリジナル商品ブランド「MUJUN」をオランダアムステルダムで立上げる。2018年7月に地元の刃物職人の後継者育成を目指して「 MUJUN WORKSHOP 」を立ち上げ、持続可能な新しい後継者育成の仕組みを構築している。2020年4月から真の職人像を追い求め、島根県の温泉津(ゆのつ)に「誰もが職人になれる村」をつくりはじめ、国内2拠点生活を実行している。地場産業・伝統工芸の未来をデザインしつつ、世界中に販路を持って活動を継続している。2021年3月 NHK Eテレ・NHK ワールド デザイントークスプラス「ワークライフ」、7月 NHK ワールド BIZ STREAM 出演など。
主な実績として、2009年・2013年ミラノサローネサテリテ出展。2010年瀬戸内国際芸術祭2010大阪芸術大学の作品「ノリとたゆたう」のコンセプトデザインと造形デザイン。2014-2016年度経済産業省MORE THAN PROJECT プロジェクトマネージャー・デザイナー。2017-2018年度経済産業省 Local Creators’ Market 審査員兼産地プロデューサー。2016-2018年度京都府の委託事業 京ものクオリティ市場創出事業(海外向け工芸品分野)の委託先企業としてEU圏のミュージアム市場を開拓。2019-2020年 大阪府八尾市の事業 YAOYA Project の審査員(2019)とメンターを担当。2015年 JIDA 2015 ミュージアムコレクションに Banshu Hamono 101 が受賞。2015年 GOOD DESIGN BEST100受賞及びものづくり特別賞受賞。2018-2019年オランダ国立Tropenmuseumで竹の椅子「 YATARA 」が日本らしいデザインとして展示(アムステ スダム)。2019年 YATARAとCHIKURINがコンテンポラリーアートとデザインのミュージアム Museum Overholland でミュージアムコレクションに保存(アムステルダム) 。世界に革新をもたらし、予想もしないような未来を切り拓く──フロンティアをゆく20人のイノヴェイターの1人として WIRED Audi INNOVATION AWARD 2019 受賞など。

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