「新長田を彩るプレイヤー 〜地方の私立大学職員、地球規模の人口移動にともなう社会問題を本気出して考えてみた〜」-Part2-
神戸常盤大学 社会連携課 Uさん
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子ども一人一人違う、ことばの育ちに寄り添う
-Uさん-
現在神戸市の公立小学校で行われているのは、日本語の理解が十分でない外国人児童の日本語の学習支援と、来日後まもない子どもを母語によってサポートするものです
-記者-
日本語の学習支援というのは、学校の授業の一環として教えられているのですか?
-Uさん-
クラス全員を対象とする授業の中ではやっていなくて
日本語がまだうまく扱えない子供にむけて、1週間に1回だけ、取り出し授業でやっています
例えば、クラスのみんなは2時間目、社会の授業を受けている時に、別の教室に移動してきて、日本語を教わるという感じです
子どもによって学年や日本語の習熟度などが違うので、ほぼマンツーマンで教わります
この取り組みは、区内でやっているのは駒ヶ林小学校だけなんです
-記者-
1校だけなんですね
-Uさん-
そうなんです
他の小学校に通っている日本語がまだうまくできない子どもはどうしているかというと
子どもが来日後間もない場合は、県と市の共同の事業で、母語サポーターを派遣して、母語で授業の通訳や日本語のサポートをしています
そのうちになんとなく子ども自身が日本語に慣れていったり、地域のNPOがされている日本語教室に通われたりします
あるいは昨年くらいから始まった事業で、市の教育委員会から日本語教師が市内の小学校を巡回するというものがあります
ですが、市内の小学校はたくさんありますし、日本語の支援が必要な子どもは年々増えていますので、全員に十分行き渡らない状況です
-記者-
母語サポーターというのは、学校にも通訳の方が行って、一緒に学んでいくということですか?
-Uさん-
そうです
授業中に子どものそばに座って、先生の指示などを通訳しています
でもそれは、来日後限定された期間内に行われていて、回数も限度があるんです
例えば小学校に上がる前に来日して、未就学児の間に対象期間が終わると、小学校では利用できなくなりますし、日本生まれの日本育ちの場合は、この事業の対象にはなりません
-記者-
もう自分で何とかするしかないような状況になるんですね
-Uさん-
そうなんです
-Uさん-
私は駒ヶ林小学校の日本語教室のボランティアを2年くらいしているんですけど、活動を始めた当初感じたことがあって
それは、子どもの言語の発達については、「母語を学ぶことが大事だ」という考え方と「まず暮らしていくための日本語を学ぶことが大事だ」という2つの考え方が大人側にはあるわけなんですけど
子どもに接する大人たちが、実際に子どもたちはどっちの言語を伸ばしたらいいのか
両方なんだとしたら、どっちも同じレベルを目指すのか
そうならば、どういった方法で行うのか
そういうことを全部個人レベルで折り合いをつけていかなくてはいけない状況があるということなんです
-記者-
なんか方針があるわけでもなく、個人の考え方ということですね
-Uさん-
今母語の話を少ししましたが、母語は大事なのかどうか、大事だとしたらなぜ大事なのか、どのくらいの母語レベルを目指すべきなのか・・・
これは、国が方針を出していないことに起因しているのです
それなのにそれぞれ子どもに関わる大人が自分で勉強して、自分で整理していかないといけない
そういった子どもに接していなければ、そういう問題があるということも知らない
さらに、子どもに対する日本語教育がかなり独特だということも、その時知ったんです
子どもは言葉自体を覚えている最中ですよね
だから、私たち大人が第2外国語として言葉を勉強するのとは全く違うんです
私たちは既に一つの言葉の体系を知っていて、これは「じゃがいも」です、これはチベット語では「ショゴ」です、中国語では「土豆Tǔdòu」です・・・と、基本になる概念とセットになった日本語の知識があって、それとの比較などで習得できますよね
だけど子どもは基本になる概念も一緒に育てないといけないんです
-記者-
そもそも概念を知らない状態ですもんね
-Uさん-
少しでも抽象的な概念、例えば、水平とか垂直とかそういった概念を覚えながらやっていくのは独特の難しさがあります
また、学習言語といって、学習をするための道具になるような言語、例えば「値」「述べる」「活用」「例」・・・
こういった、抽象概念を積み重ねていくために必要なジャンルの言葉があって、これの習得度合いが、その子どもの言葉や学習面の発達を左右します
あと難しいのが、子ども自身が日本語学習にモチベーションが低い状態が普通ですので・・・
-記者-
そうなんですか?
-Uさん-
成人の人は自分の生活の為とか、仕事の為に必要だったら、勉強するのが得意だろうと苦手だろうと、必要であれば学習します
それに大人は自分の学習スタイルを確立していることが多いのですけど、それって生まれた時からそうだったわけではないですよね
それに、そもそも日本に本人が来たくて来ていないので・・・
-記者-
親の転勤などによることが多いイメージです
-Uさん-
もちろんそうです
小学校の低学年なんかは、校区外に一人で出ることもできないんですよ
子どもは大人の転居や移住などの都合に伴われて、移動しています
また、年齢によっては、「なんで日本語をやらないといけないのか」という思いもあって難しいんです
例えば思春期の入り口差し掛かったころの子どもが、急に親の都合で日本で暮らすことになった場合、名前も変わって、使う言葉も変わってしまうっていうことを受け止めて、それを乗り越えて、学習に向かっていかないといけないということもあります
もっと幼い場合は、教室で座ってるとかノートに字を書くとか、学習スタイルそのものが確立する前だったりするので、そこから教えたり
家で話してる言葉(母語)と学校で話してる言葉(日本語)の違いに意識的でない場合も多いです
でも、他の子たちのクラスは一緒に家庭科とか楽しくやってるのに、なんで自分たちだけ別に日本語の授業を受けなあかんのかって不満があったりすることももちろんあります
そもそも学年もレベルも違うので、かなり個別の対応が必要になるっていう特徴があるんです
多文化共生社会の実現に大学が貢献できることとは
-Uさん-
私の所属してる大学では教育学部があって、保育士さんや幼稚園教諭・小学校教諭を育成しています
その学生さんたちが社会に出るときには海外にルーツを持つ子どもがクラスにいるのが当たり前で、さらに割合が増えている時代になります
私は大学で授業も担当しているので、子どもに関わる専門職になる予定の学生たちに、前もって外国にルーツを持つ子どもたちの知識をたくさん身に着けられるように、その子たちがどういうことで困るのかだとか、どういったことをケアしてあげたらいいのかとかを、授業を通して伝えています
そういうことを学生に教えて現場に出すというのが本来的な地域貢献、社会貢献なのかなと思っています
こうした研究内容をダイレクトに授業の内容に反映させるというのが私の1番の活動といってもいいかもしれませんね
-記者-
新しく先生になる方々は、もうそのような知識や意識を持って教師になられて、現場でそれを活かしていくというような流れになる、ということですね
-Uさん-
はい、そうなってほしいという感じですね
他には、長田区役所内にできた「親子ふらっと広場」の多文化共生コーナーのプロデュースみたいなのをしたりですね
-記者-
そうなんですか!
-Uさん-
はい、そこに置いてあるものとかを地域の方と協力して集めたりとか絵本を揃えたりしました
あと、多文化共生の活動で意識していることについてなんですが、長田には多文化共生に関連するNPOとか団体がすでに結構ありますよね
震災の前後くらいにできた団体がたくさんあって、この分野で長く活動されてる人がたくさんおられます
なので、この人たちが既にやってることを、また1から模索していくのではなく、この先輩方がやられてることをよく教えていただいて、それを補うようなことをしていきたいというのを、すごく思っています
-記者-
補うようなことっていうのは、例えばどのようなことですか?
-Uさん-
地域の人たちが蓄積してきた活動の中に、既に結構なトライアンドエラーが含まれているので、そこを学ばずに新しく始めるっていうのは人類の文化や歴史の無駄だなと思っていて・・・
だから、まずはそれをよく見て学んで、それぞれの団体でやられてることを繋いでいけたらいいなと思ってます
例えば、子どもたちって、生活の中で学校、JSL、学童保育、塾、NPOの放課後支援など、色んなサービスを渡り歩いてるんですけど、どこでどれくらい学習が進んでるのかっていうのはそれぞれ把握できてないんですね
-記者-
連携がなければ、それぞれの場所で完結になっちゃいますもんね
-Uさん-
そうそう、そういうのを繋げれたらいいなと思ってます
というか、長田の多文化共生分野では、みなさんがずっと前から先進的に取り組まれているので、新参の私が大きい顔できないですっていうのを言いたいわけです(照)
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