かかりつけのお医者さんのいる、サングラス『tesio』
ローマ劇場から真っ逆さま。サングラスが落っこちた。
2年前、ヨルダンへひとり旅へ出かけました。初めての中東への旅。「あの場所には、こんな服装ででかけたいな。」と、まだ見ぬエキゾチックな国の景色に、アレコレ妄想を膨らませていました。せっかくだから、お気に入りの服やモノを連れて行きたい。そんな気持ちで、日本より暑くて日差しが強いヨルダンへの旅の相棒を、リュックに詰め込みます。そのうちのひとつに、まだ買ったばかりのサングラスがありました。
到着して2日目に、首都アンマンにあるローマ劇場へ。すり鉢状の劇場は、足がすくむほどの大迫力。息を切らしながら、急な階段をせっせと登ります。
やっとの思いで、頂上へ。カメラを構え画面をよく確認するために、かけていたサングラスを外したとき。スルリと手からサングラスが抜け落ち、「カラン、カラン、カラーーーン」と、必死に登ってきた階段を、転げ落ちて行きました。慌ててあとを追いかけるも、硬い石の階段に打ち付けられ、見るも無残な姿に。
自分の不注意を呪いながら、サングラスは現地で処分。道端で売っていた安物のサングラスを、仕方なく買うことに・・・。
お気に入りのものほど、お留守番。
お気に入りの白いシャツを着た日に限って、カレーの染みをつけてしまう。そんな経験はありませんか?ヨルダンに持っていったサングラスのように、特別な場所には、思い入れのあるモノを連れ立ったり、着たりしたいのだけれど、ハプニングが起こるリスクもはらんでいます。汚れたり、壊れたり、傷んだり。
そんなハプニングを経験・想像すると、どうしたって「本当のお気に入りのモノ」ほど、出番が少なくなってしまうのです。高価なものなんかだと、より一層。
大切に思うあまり、部屋の隅っこやタンスの奥底に、お留守番させてしまう。そうなると、買った時はとても気に入っていたけれど、数年経った時に「あれ、これあんまり使ってないなぁ」なんて、思ってしまうこともあります。(時には、捨ててしまったり・・・。)
また買えばいいや、の呪縛。
ローマ劇場の悲劇(笑)から、サングラスを買うのが億劫になっていました。サングラスって、メガネよりもつけたり外したりするし、持ち運ぶときに潰して壊れたらどうしよう、なんていう不安もあったりで。
いつからか、サングラスだけでなく、移動が多い旅や出張に持っていくモノが、壊れたり、汚れたりしていい、安物が中心になっていました。
汚れたり、壊れたら、また買えばいいや。
無意識のうちに、そんな気持ちが心に住みついていたんです。様々なものを買っては捨て、買っては捨て・・・。そんな消費社会のサイクルに飲み込まれていることに、嫌気がさしつつも、少しの諦めもあったり。
もちろん、大事にしたい!と、ときめくものに出会うことだってあります。旅先で出会った器、職人さんによって丁寧に作られた洋服。自分で大切に手入れをしながら、使い込んでいるものもあります。でも、壊れたときに、自分に直すスキルもなければ、修理の方が高くつくことも・・・。
永く大事にすることと、使い込むことのバランスって、難しいよなぁ、と日々頭の隅っこでぐるぐると考えていたとき。これからのモノのあり方を、見つめ直すきっかけを与えてくれるようなサングラス、『tesio』に出会いました。
永く使うことを前提とした、サングラス。
『tesio』は、めがねの街で有名な、福井県鯖江生まれのサングラス。プラスチックフレームの製造などを行う地元企業<谷口眼鏡>さんが、オリジナルブランドとして展開しているアイテムです。
ひとつひとつ、職人さんの手で丁寧に作られており「使い手に永く"よりそう”クラフトサングラス」をコンセプトに、使う人の手で日々の生活に馴染み、愛着深まるサングラスとなっていく。そんなサングラスになってほしいという想いが込められています。
ブランドサイトを眺めているだけでも、とても使い手への想いが伝わってくるのですが、私が最も驚いたのが、この仕組みです。
時には傷が付くこともありますが安心してください。
あなたに代わり、職人が修理を行いまたあなたのもとへお返しします。
眼鏡工場だからこそできるお手伝い。
<「tesio」 ブランドサイトより>
なんと、永く使い続けられるように、リペアの依頼をすることができるのです。少し曲がってしまった、傷が目立つ、部品の破損などがあった場合、問診票を書いて、サングラス と共に鯖江へ送ると、職人さんが直してくれるといった流れです。
お気に入りのサングラスを壊した若干のトラウマ(苦笑)があった私にとっても、嬉しい取り組みです。思う存分お気に入りのサングラスを、色々なところに連れて行けるなぁ、と心躍りました。
軽さと、丈夫さと、安心感と。
私が現在使っているのは『tesio ARCH【【tokyobikeコラボモデル】』。透き通ったライトブラウンのカラーが、涼しげで気に入っています。
アジア人のお顔にフィットするよう設計されているそうで、付けていてもずり落ちてくることがなく、快適です。持ってみると、とても軽いのですが、フレームを開いたり閉じたりする度、適度な手応えを感じる丈夫さに、安心感があります。
実際に使ってみて、便利だったのが「視界が暗くなりすぎない」点でした。出張でよく車の運転をしたり、写真を撮ることも多いのですが、サングラスをかけていると視界が暗すぎて、結局、取ったり外したり・・・なんてことが起きるのですが、『tesio』はかなり明るいまま見えるので、その動きがグッと少なくなりました。(でもしっかり紫外線はカットしてくれる!)アウトドアやリゾートで使うためだけではなく、日常使いにも重きを置いているからこその機能性なのかなと感じました。
そしてなんといっても、少しの傷や破損は職人が直してくれる!と思うと、どこでも躊躇わずに連れていくことができる。これが本当に嬉しいです。お気に入りのものと、特別な場所にでかけたい。やっと実現できるなぁと、しみじみ思ったのです。
作り手と繋がっている、安心感。
もちろん雑に扱うことや、ローマ劇場の階段から落としてしまうなんていう不注意はもう絶対にしませんが、直してくれる人がいる!と思うと、ちょっぴりモノに対しても大胆になれます。
ふと、子供の頃の出来事を思い出しました。私の実家は和室があり、数年に1回障子の張り替えを行っていました。障子屋さんが来る前日「今日は、障子を破っていいよ!」という日があって、私含む子供たちはえい!なんて言いながら障子をつつき、ビリビリに破いて遊びまわる。次の日学校から帰ってきたら、いつもより白さが眩しい障子に綺麗に張り替えられている。そんな職人さんの魔法のような手仕事を見るのが、少し不思議で、楽しみでもありました。
昔は、モノたちに、かかりつけのお医者さんが必ずいて、使い捨てではなく、直して使い続けるという仕組みがあったはず。いつからか、壊れたときに直してくれる人や、あるいは自分自身で直せるスキルが、なくなってしまったんですね。作り手と使い手との距離が、離れてしまったから。
「時」が育むもの。
私はもともと、「古いもの」や「時を経てきたもの」が好きなのですが、以前見た、御茶ノ水の山の上ホテルを手掛けた建築家 澤野 眞一さんのインタビューで、印象に残っている言葉があります。ホテルにはクラシックで素敵なバーがあるのですが、そのお店の椅子についてのコメントです。
ワインバーの椅子を選んだときに(まだもちろん新品で)、当時の支配人や、スタッフから「この家具、どのくらい経ったら良くなるかな」って言われたんです。それは、積み重ねた時間が、この椅子にどういうふうに映ってくるかということを聞かれたんですね。私は「10年我慢してください」って言いました。すると支配人は、10年でいいのか!と笑っていました。
時を重ねることで、価値が増したり何かがモノに宿っていくことを、スタッフのみなさんがとても楽しみにしていたんですね。そんなやりとりを耳にして、「時間が、愛おしむ心を育むんだなぁ」と感動したのを覚えています。
愛着を感じるためには、時間が必要。そんな当たり前に思えることが、おざなりになってしまった今の時代。『tesio』には、使う度に大切なことを思い出させてくれるパワーがあります。
お気に入りのものを携えて、おでかけする楽しさ。"飾り"ではなく、ちゃんと日常使いできる喜び。それは、作り手の人たちを側に感じるからこそできることだと思います。かかりつけのお医者さんのいる安心感のように。
モノとの思い出や一緒に過ごした時間が、増えれば増えるほど、傷もつくかもしれないけれど、愛着も増していく。永く使うことの価値、共に時を刻むことの意味を、『tesio』を通じて、私も考えて行きたいなと思っています。
使い始めてから約1ヶ月強、散歩に、ドライブに・・・。色々なところへ行く相棒として、サングラスを連れ出しています。
相棒さん、末永く、どうぞよろしくね。そして、職人さんへ。ちょっぴり相棒が怪我した時は、お世話になります。
大切に、そして、たくさん、使っていきたいです。
*谷口眼鏡 『tesio (ARCH col.LBR)』の詳細はこちら。
*中川政七商店【推しの逸品】でも販売をしています。
この記事は、中川政七商店が運営する「大日本市」の企画に参加し、暮らしの道具を実際に使用し、感想を記事にしています。道具の「カタリベ」として、作り手の方の想いを側に感じながら、書かせていただきました。
*大日本市のサイトはこちら
*カタリベの記事一覧はこちら
私の他にも、カタリベの皆さんが色々な道具たちの紹介をされています。どれも素敵な記事なので、ぜひのぞいて見てください...!
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