八本足の蝶 2023/06/26
著者経歴から
1977年生まれ。早稲田大学第一文学部哲学科卒。
編集者、レビュアー。
2003年4月26日、自らの意思でこの世を去る。本書の原文は2001年6月13日から亡くなる直前までインターネット上に発表された。
ウェブサイト「八本脚の蝶」は今も存続し、深く静かに反響の環を拡げている。(2006年1月現在)
(ブログ記事をまとめたものと知って実際のウェブサイトを訪れたら、日付が新しいものが一番上になっているから、ショックを受けてしまった。
この本を手に取ったのは、spotifyで、「真夜中の読書会~おしゃべりな図書室~」を聞いたから。「おしゃべりな図書室」を主宰されているばたやんさんも編集者だそうなので、いろんな意味で思うところがあるのかな?「新しい環境へ、心の支えになる本を一冊選ぶとしたら?」の回で紹介されていました。)
2001年6月から始まっているブログの内容は、本のことから、買い物、おしゃれや、コスメ、ジェンダーについてまで様々に及び、行間からは、聡明な、けれども危ういところのある一人の女性の姿が生き生きと立ち上ってくるようだ。
敏感で繊細で、おしゃれが好きで、人形が好き、いわゆるエログロなんかも好きで、繊細なのに時に大胆。好きなものがはっきりしていて、常人ではない読書量を持ち、その内容は多岐にわたる。個性的で、きっと実際に会うとそのミステリアスな魅力で、強烈な印象を残す人だったんだろう。
特に、彼女の圧倒的な読書量と、物語や美、その他もろもろについての考察は私の理解できる範疇にはなく、読み進めているうちに、どんどんと彼女の美学のとりこになってしまい、私には到底理解できないようなことについてまで考え込んでしまう始末であった。
特に、雪雪さんとの哲学的な会話は、世の中にこんな人たちがいたのだ。と思わせられて、お二人が出会われたことが奇跡のように感じられた。
雪雪さんがこの本に寄せられた文章
「ぼくは現実で見つからないものを本の中に探して、本の中にも見つからないもので喉元までいっぱいになっていた。そこにいきなり、本の中にも見つからないものが、服を着て眼の前にあらわれたのだ。」
しかし、その感受性の豊かさから、彼女はすこしずつ壊れていってしまう。
その過程は、その独特の感性と世間とのズレが大きくなってしまったのか、はたまた自分の美学をつらぬくためだったのか、仕事も原因の一つだったのか?
とにかく、この人はきっとこれ以上歳をとらない、といった予感が現実になってしまった感じであった。
読み手というのは決して派手な立ち位置ではないから、優れた読み手というものにはなかなか出会うことは難しい。
物語を守るのは優れた読み手ではないかと思うので、もっと違う道がなかったのかとも思う。
しかし、こうやって二十年もたってから彼女の本を読む人間もいる。
人が生きた証は、人の心の中にあるとよく言うから、彼女の人生は短かったけれど、とても濃密で、きらきらしたものだったと思うのだ。
この表紙の蝶のように。