闇の脳科学 2023/07/01

今年の初めに、TMS治療についての本を一冊読んだ。

私は、TMS(経頭蓋磁気刺激)という言葉をこの本を読むまで知らなかった。
TMSとは、脳に対して、頭蓋骨の外から磁気刺激を与えることで、鬱病などの治療を行うというもの。
この治療を受けた自閉症患者の体験記が、「ひとの気持ちが聴こえたら」である。
この本では、著者の自閉症を「治療」するのだが、発達障害については色々と研究の途中であり、最近分かったことも多いと思うのだが、もし苦しんでいる人がなんらかの改善策を見出せるなら、とても画期的なアプローチではないかと思い、とても印象に残った本である。
著者のロビソン氏は、治療を受けるだけではなく、専門外である脳科学を、熱心に学ぼうとされ、常に探究心を失わず、結果、素晴らしい体験記となっている。
読み始めた当初は、自閉症で困難がある人のための画期的な一歩かと思ったが、読み進めていくと必ずしもそうばかりではないとわかり、少し残念に思った部分もあった。TMSは私が期待していたよりよいものではなかったのだ。だが、TMSという言葉は常に頭の片隅にあった。

さて、最近の研究では、脳の機能障害によって色々なことが起こるというのが定説のようだ。
 TMSという言葉がずっと頭の片隅にあった私は、この「闇の脳科学」という本を見つけたとき、すぐにTMSに何か関係があるのでは?と思った。
しかし、この本で取り扱われているのは、もっと直接的な方法で、脳に電極を指して、深部を刺激するという方法だった。
それもそのはず、この本が主に取り扱っている時代は、1950年代から1970年代にかけてが主なのだ。

その時代とは、あの悪名高いロボトミー手術が「たいした科学的エビデンスのない治療法であったが広くおこなわれ(解説から)」ていた時代であり、統合失調症の治療には電気ショック療法が一般的に行われていた時代。
そんな時代において、この物語の主人公ヒースは、脳に直接刺激を与えることによって、性格・嗜好までも操るというまさに神の領域まで踏み込んでしまうかもしれない試みを行っていたのだ。
ヒースは実在の人物で、その功績は大きいものだったはずなのに、現在では忘れ去られた科学者である。
「闇の脳科学」は、彼が闇に葬り去られた理由は、果たして、その実験内容のせいだったのか?彼に何が起こったのか、それを解き明かしていくと同時に、彼の活躍していた時代から、現在にかけての脳科学について書かれている本である。
ヒースの行った実験は、当時から批判されていたようだ。著者は好意的に書いてはいるが、ヒースの本当の気持ちはどうだっただろうと思わざる得ない。すべては患者のためだったのか?そのくらい彼の実験は、倫理的にアレルギーを起こしてしまうようなものだったと思う。
彼の功績は、現在の脳科学においてとても重要な地位を占めていると思われるが、彼がすっかり忘れられているのはどうしてか?その理由は私達が思っているのとは違うものになっているように思うので、そこは読んでいただきたい。
(ノンフィクションであるが、その過程はまるで小説のように面白かったので一読の価値ありと思います)

脳を直接刺激・・・人によって意見はさまざまだと思う。
まさに神の領域に踏み込みかねないとは思う。
しかし、統合失調症や鬱病だけでなく、もっと人口の多い、そしてもっと誰でもかかりやすいと思われる認知症についてはどうだろうか?
もし脳に電極で刺激を送るという方法が、認知症に画期的な治療法だったいうことになれば、脳を直接刺激するという方法に対して、もっと倫理的なハードルが低くなるのでは?

この本によると、脳への刺激によって、その人の気持ちまで変えられるようなのだ
脳は果たして人格そのものであるのか?
そんな疑問について考えてみるために読んでも面白い本だと思った。

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