「ブルー・オーシャン戦略」言葉が独り歩きしてない?本で読んでみてわかったこと
新規事業の立ち上げを初めて4年目。
2年前にリリースしたサービスが残念ながらサービスクローズすることになってしまい、その振り返りをする中で改めて読んでみた「ブルー・オーシャン戦略」についての学びを共有します。
ブルー・オーシャン戦略 ≠ ニッチ戦略
「ブルー・オーシャン」を使うとき、その単語の意味からも「競合のいない市場で独自のサービスを生み出し、高収益な事業を展開するための戦略」だと思っており、半ば発明に近いような概念でとらえていました。
しかし、結論から言えば、ブルー・オーシャン戦略とは、選択と集中に他ならなず、市場選択の理論やイノベーションの話とは別だったわけです。
選択と集中というと意味がぼやけてしまうのでもう少し絞り込むと、顧客価値を規定するファクターにおける選択と集中を行い、他社とは異なる尺度で顧客から評価され市場を出し抜く方法と言っていいのではないでしょうか。
ブルー・オーシャンと聞くとてっきり、過熱したレッド・オーシャン市場を飛び出して、未開の市場(≒ブルー・オーシャン)を目指すとイメージしてしまうのですが、実際のところ本書で紹介されている事例の多くは、既存市場での戦い方をズラした話であり、今とは異なる顧客にアプローチするという感じではなかったです。広い意味で競合はいるというのが、書籍を読みながら感じたところでした。
言い換えれば、競合が気づかないファクターに価値を見出し、競合同士が消耗しあう傍らで別次元の価値を用意する。つまり、”出し抜く”というわけです。
事例:ベルギー劇場映画市場
1960年~80年にかけて、衛星放送やケーブルテレビといった家庭内の映像娯楽サービスが普及する中で、ベルギーの映画産業は衰退の一途をたどっていました。
そんな中、同国の映画館の多くは、減少する顧客の奪い合いを前提に戦略を組んでおり、1つのスクリーンの規模を小さくしより多くのラインナップを取りそろえ(マルチプレックス)、市の中心部に立地させあらゆる人が来館できるようにしていました。
そんな苛烈な市場において、バート・クライズ社は独自の分析と業界常識に流されない意思決定によって見事競合を出し抜き、映画市場の50%を占め、市場自体をV字回復させてしまいます。
高コストファクターを疑う
バート・クライズ社は、市の中心部での立地競争から撤退し、幹線道路の外側という郊外で地価の安い場所で映画館を展開しました。
これは、それまでの業界では皆が重要視するファクター(移動の利便性)を疑い、それが顧客に提供する価値とデメリットを客観的に分析した結果だと思います。市の中心部に建てることで駐車場が不足し、比例して料金は上がる。加えて1つの座席に使えるスペースが狭くなり、非日常としての体験価値を棄損してしまっていたのである。画面が小さくて椅子が窮屈なら、家のテレビでゆっくり映画を見たほうがいいよね、となるのは当然ですね。
対して、郊外の立地であればスペースは余っているので、大規模な駐車場が無料となり、1つの座席のスペースは非常に広くできます。
バート・クライズ社は、徒歩による顧客、マイナー作品が好きな顧客の売上と引き換えに、自宅では得られない上質な非日常の映画館体験を実現したわけです。
他社の10倍優れた付加価値を生み出せるか
コスト削減は選択と集中において非常に重要です。ですが、浮いたコストの再投資先こそ、ブルー・オーシャン戦略の肝で一番難しいところでしょう。もしバート・クライズ社が、「マーケティング費用に全突っ込み!!」としていたなら、おそらくバート・クライズ社の快進撃は短期的なバブルに終わってしまったでしょう。
バート・クライズ社はこのコストを新規の施設投資に回し、上記で書いたように上質な映画体験を実現していきます。
以下では具体的なイメージを持てるように、その体験を構成する施設備を箇条書きで紹介します。
1つのシアターの収容人数を、都市型が100席程度のところを最大700席にまで拡張。(スクリーン数はその分減少させている)
スクリーンを巨大化
席にアームレスト
フロアを急傾斜にして、それぞれの客の視界が遮られない
最新鋭の音響装置
価値曲線がわかりやすい
冒頭で伝えたように、ブルー・オーシャン戦略とは、顧客価値を規定するファクターにおける選択と集中を行い、他社とは異なる尺度で顧客から評価され市場を出し抜く方法だと解釈しました。
上記の理解を端的に表現したものとして、価値曲線があります。以下の画像では「戦略キャンパス」と書かれており本質的には同様の思考フレームなのですが、横軸には顧客体験に直接かかわる要素に限定すべきです。
卑近な例だと、スーパーマーケットの台頭がありました。スーパーマーケットが登場するまでは商店街で、目当ての商品を販売している店に行き、店主とコミュニケーションしながら商品を選んでもらい、購入するという買い物体験が主流でした。
その世界においては、店主の人間性や値引き、おまけ合戦が戦いの手段になっていました。その日常買い物市場に、アメリカ式のスーパーマーケットが殴り込んでいく形になります。
その際のスーパーマーケットの戦略を言語化するのであれば、商品を店内に並べて顧客が自分で商品を集める手間をかけさせることで、店主による対面接客のコストを削減する。その資金を店舗投資に費やし、1回の買い物で必要なものが揃うという便利な体験を生み出し、地域の商店街を駆逐していきました。
何気なく使っている重要な概念をしっかり学びなおすことが大切だと改めて思いましたよ、という話でした。
お疲れさまでした。