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チェンソン①
はじめに
「お兄さん花粉症みたいですね~(笑)」
お客様の前で今にも泣き崩れそうな同期に気づき、僕は言った。この時期は花粉症の流行が例年より早かった。加えてサービス業において、お客様の前で従業員個人の感情を露わにするのはご法度。そのためこの言い訳は、同期の言動をカバーするには最適な言葉であった。
その日は僕の勤務最終日。大学を休学し2年間勤めた職場での最後の仕事だ。
一時的に、重い花粉症を患うことになった彼の名前はチェンソン。僕より3つ歳下で、身長は177cmくらい。同じ配属先で野球経験者ということもあり、入社式当日から意気投合。「初めまして」の挨拶など、僕達には必要なかった。
そんな大切な同期のチェンソン。
勤務最終日、僕の涙を全部奪ったように彼は泣いていた。僕の最終日のはずなのに、1番涙を流すのは僕のはずなのに。
「奪う」という行為には、必ず被害者が存在する。そして被害者である奪われた人には、悲しい・辛い・憎いとマイナスな感情が湧き出てくるはずだ。それが「奪う」という行為がもたらす、一般的な影響である。
僕は確かに奪われた。目の前の同期に感動の涙を奪われたはずだ。しかし今回は、マイナスな感情にならない。奪った彼に対して、何の怒りもこみ上げてこない。
寧ろ、それだけ泣いてくれて嬉しかった。感謝の気持ちでいっぱいになった。自分のためにこれだけ泣いてくれる人に出会ったのは、生まれて初めてだ。この先も、彼以上の逸材には出会えないであろう。僕にとって、「チェンソンがかけがえのない友人である」と改めて実感できた瞬間であった。
今後、僕とそんなチェンソンとの2年間を振り返る。勤務最終日の感動を、この小説を通して取り返そうと思う(笑)