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失踪事件3日前

雨音が滴る、何者にもなれなかった自分が何かになろうと思えたその日、君はまだ笑ってくれていた、日に日に目を合わせなくなって、幼い苛立ちを君にぶつけて君を避けてた、君の眼に映っていない気がした、自分が嫌だったから。
君のための偽善が、君にだけ認められなかったから、何故かは知らないし、考えたりもしてない。
だから今君が何してるのかとか全然知らないけど、


なんで一人でこんなところにいるんだよ。
なんで一人でこんなところでずぶ濡れになって泣いてんだよ!!!!

中学一年梅雨、ジメジメした心と季節。

声をかけてしまったから、僕はもう離れられない。


ここが地獄の入り口




傘を渡して学ランを上からかけてやる、何を考えてたかなんて知らないし、家と真逆のこっちに君がいることもわからない、何が何だかわからないけど、君が泣いてるのが嫌だった。


あ〜…えっと…家来なよ

しの…!!…おい!!!


…なんか怒ってるの?最近避けてたから…とか…

ねぇ〜…その…

あ〜…


手を引いて歩く、幸い今日は家には誰もいないし、少し歩くけど、ここに置いておくわけにも俺が濡れて帰るわけにもいかない、心配だし…

心配だから…なんだけど…
そう、言い聞かせてはいながら、繋いだ手の柔らかい感触に少し気持ちを浮つかせていた。誰かに目撃されたくて仕方なかった。



しのと手ぇ繋いでる!!!!!!!!!

呑気なものでそんなことしか頭になかった。

寒く凍える手に温もりを与えるのが、他でもない自分であることが、たまらなく嬉しかったのだ。





タオル持ってくるから、玄関で待ってて
そう告げて、洗面所へ、部屋片付けてないんだよなぁ…


それで、なにがあったの?しの?
…私ね、私
ん?どうしたの?


…死にたい


体から暑さが抜けていく、梅雨のジメジメが、濡れた服が肌に嫌なくらいに張り付く。


…よく聞かせてもらってもいい?





覚悟があった、君を守ると決めたあの日から。

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