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取り調べ資料11【意味】
「人を殺したというのに、僕はなんでこんな顔をして、こんなふうに平然と生きているのだろう。」
「僕には生きる意味なんてない、価値もない、生きていていいわけがないんだ。」
「だから篠崎さん、これ以上…」
「しろくん!!!」
「………意味がないよ、励まそうったって、死んだ人は生き返りっこないんだか…」
頬を打たれた、これ以上僕にどれほどの怪我をさせようというのか。
「…痛くないよ、もうずっと、痛くないんだ…その…もうやめよう、友達みたいにするのも、おせっかい焼くのもさ。」
「…」
「生きる意味がないんだ、もう。」
「…」
「生きていたくない。」
「…」
「.....なんとかいいなよ。」
「私、遥さんのこと好き。」
「…?」
「遥さんの気持ち、すごくわかるもん、私、遥さんがどんな気持ちでしろくんと話してたのか、今話を聞いて、すごくすごくわかった!」
「…」
「もしね、しろくん、もし、私が遥さんだったらね、しろくん。」
「…」
「私を殺したなんて思わせてしまってごめんなさい!って思ってると思う!」
「…みんな同じようなこと言うよ。」
「私だから思うの、私じゃなきゃ思わない!」
「何が言いたいの...」
「しろくん、私ね、しろくんのことすごいなって思ってるんだ、今回だけじゃなくてね、いつもしろくんがいろいろしてくれるおかげで、私いっぱい助かってるんだ。」
「僕がしたいことしてるだけだよ。」
「それだよ!私バカだしチンチクリンだし、何も考えてないからいつも間違ったことしちゃって、色んな人に迷惑かけて、きらわれて、それでもしろくんはいつも私を助けてくれたでしょ?」
「…でも、篠崎さんは、そんなんじゃないよ」
「私は、本当、しろくんが何で悩んでるかとか、ずっとなんで悲しんでるのかなんてわからなかった、けど私なりにね、私なりに思うんだけど。」
「そうやって、人を助ける人であってほしい、いつも自分のことより誰かのためになれるしろくんだから、きっとしろくん自身に生きる意味がなかったとしても、他の人の生きる意味になれるんじゃないかな?って思うんだ!私にそうしてくれたみたいに。」
「…でも僕は、人に感謝される言われなんかない…」
「じゃあ!!えっと…そうだなぁ〜…しろくんは遥さんが生きてしろ君が死ねばよかったって思ってるんだよね?」
「…そう…だね、うん。」
「なら、もし遥さんが生きてたら、しろ君が遥さんにしてもらったみたいに、遥さんはたくさんの人を笑顔にしてたんじゃないかな?」
「…そう…思うよ」
「なら、しろくんがそうしようよ!贖罪…?って言うのかな?ちゃんと言葉の意味はわからないけど、それでしろくんが少しでも気がまぎれるなら。」
「誰かのために一生懸命になれる君が、他の誰かのために頑張ればいいんだよ!」
「もしどうしてもダメならずっと私が一緒にいるからさ!」
「まぁ…私なんていても、ってしろくんは思うかもしれないけどさ…それでも、少なくとも私はしろくんに、いっぱい支えて貰ったんだから!今度は私に支えさせてほしい。」
「一緒に生きていこうよ!私しろくんがいない世界なんて嫌だよ。」
「え!!?ごめんねしろくん!どうしたの!?私にそんなこと言われるの嫌だった!?どうして泣いてるの!!?ごめんなさい!」
「…僕が…君の助けになりたいと思うのは、君が誰より、人に寄り添って考えることができる人だからだ。」
「…え?」
「どこか、君に憧れていた、だからこそ、僕をみていて欲しかった。」
あの事故の日から、僕の時間は進まなくなった。
新しいことをしようとするたび、前を向こうとするたび、思い出が足にまとわりついて、進んでは行けないと囁いて。
本当は焦がれていたのに、ずっとどこかで諦めていた。いや、期待しないようにしていたのだ。
忘れてしまうのが怖くて、この罪悪感や嫌悪を大切にしていなければ、遥ねぇのことを本当に殺してしまうような気がしていたから。
生かすことと活かすこと。
そんなことを考えるにはまた僕は幼くて、辛い経験にあぐらをかいて、動くことを、恐れていた。
蹲る僕を誰かに、誰かに本当は
本当は誰かに認めてもらいたかっただけなのだ。
共に生きていいのだと、手を取って欲しかった。
全部受け止めて、手を取って欲しかった。
今は、隣にいる君の温もりだけで、蹲ることをやめることができるくらい。
できるくらい…
できやしない。