![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/31381503/rectangle_large_type_2_014e52944f5091ab809f633da1dfe366.jpeg?width=1200)
「ネット世論」どこまで信じるべきか|ICTと社会
先日、女性タレントがSNS上での誹謗中傷を苦に自殺したと見られる痛ましい事件が起きた。またコロナ禍で打撃を受けた観光産業等の救済を狙った政府の「GoToキャンペーン」は、ネット等での大きな批判の末に、東京除外という妥協に傾かざるを得なくなった。
TwitterやYahooニュースのコメントに対する膨大な「いいね」数を見ると、世の中の人々の大多数が一つの意見に賛同しているかのように思えてしまうが、このような「ネット世論」は果たして、実際の世論を反映しているのだろうか?
もちろん2010年にチュニジアの一青年の焼身自殺に端を発して、SNSを通じて大きな社会運動となり、チュニジアやエジプトの政権打倒にまで広がった「アラブの春」運動や、あるいは最近のBlack Lives Matterのように、「ネット世論」が大きな社会的ムーブメントになることはあり得る。昔ならあり得なかったことであり、インターネットやソーシャルメディアが民主化や社会改革の大きな武器となる得る証と言えるだろう。
一方で「ネット世論」は一歩間違えば人を傷つけたり、社会をミスリードしかねない要素も持っている。
情報通信白書「ソーシャルメディアの普及がもたらす変化」によれば、SNSに書き込んでいる人は全体の1割程度なのだそうだ。
また国際大学の山口真一准教授によれば、ある問題に対し「非常に賛成」あるいは「絶対に反対」というような極端な意見の人ほどネットに多く書き込みを行うため「ネット世論」は極論ばかりが際立って見える傾向があり、また同氏の著書「炎上とクチコミの経済学」によれば、炎上参加者はネット利用者のわずか0.5%であるとの分析もある。
そしてその極端な意見は、情報通信白書によれば、正しいか(信憑性があるか)ではなく、「面白いか」「共感できるか」によって「いいね」やリツィートされ、拡散されていくらしい。
さらに言えば、2016年のアメリカ大統領選挙でロシアがサイバー攻撃やSNSなどを用いて世論工作や選挙干渉を行ったという疑惑も取りざたされているが、こうした恣意的な情報操作も技術的に可能ではある。
このように考えると、ネット上の意見を実際の世論であると鵜呑みにすることは大変危険であり、実体を見誤る恐れがある。
決してネット上の意見が誤りだとか、取るに足りないと言うのではない。冒頭に述べたように「ネット世論」が社会改革に大きな役割を果たす場合もあり、インターネットは大きな価値をもたらしたと思っている。
そもそもTV報道などを含め、何らかの媒体を経由した情報は全て「二次情報」である。さらにそれがリツィートなどで伝聞されたものは「三次情報」と言えるかもしれない。「二次情報」「三次情報」は必ずそれを伝える人、切り取った人の考え方によるバイアスがかかっており、私たちはそうした情報に埋もれて暮らしている。極端に言えば「本当の真実」なんてどこにも無いと言ってもいいだろう。
それが「ネット世論」の現実だということを理解した上で、自分の言動や行動を決めていくという情報リテラシーが求められるのではないだろうか。
ネットの誹謗中傷に悩み、命を絶った芸能人。人の評判が全ての仕事ではあるが、「ネット世論」なんて所詮はそんなもの。「あまり気にしないほうがいいですよ」と私は言ってあげたい。
■■
記事は以上です。お読みいただきありがとうございました。
このシリーズは有料マガジン「ICTと社会」にまとめていますので、よろしければご購入下さい。
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?