食べられる深海生物3種
流通量は極少な
水産の食材たち
水深200mを超える場所を一般的に深海と呼び、そうした環境にすむ生き物たちはめったに人の目に触れることはありません。ただ、深海生物のなかにも、比較的わたしたちの食卓に並びやすい魚たちもいます。アンコウやキンメダイといった魚たちが例に挙げられるでしょう。
今回はそうした比較的身近な深海生物ではなく、ごく一部の地域で好んで食べられていたり、魚網に入ってしまったものをまれに食したりするような、市場に流通することが極めて少ない生き物たちを紹介します。「食べたことある人は少数だろうな」と思いながら本記事を書き進めているので、もし本記事を読んで「これは食べたことある!」という人がいたら、ぜひコメントで味の感想を教えてください。
◯アブラボウズ
稚魚は水深約150mまでの表層で、漂流物に身を寄せて生活するそうですが、成長すると水深約300〜800mの深海岩礁域に移動します。深海にすむ個体を捕獲することは難しいため、稚魚を育てて展示する水族館もあるとのこと。
その名が示す通り、消化が困難な脂肪分が多く含まれており、食べすぎると消化不良を起こすので注意が必要です。冬が旬で、煮付けや刺身にしたり、しゃぶしゃぶのように余計な脂を落として食されます。とくに小田原や静岡などでよく食べられています。
◯タカアシガニ
脚を広げたときの体長は4mで、カニ類では最大級です。水深250〜650mに生息し、殻が硬く、脚が細いのが特徴です。
身は水っぽく、うま味は薄いと評されることもありますが、基本的には一般的に食べられるカニと同様の風味とのこと。焼きガニにして提供されることもありますが、蒸しガニにすることで身がしまってより美味しくなるそうです。
◯オオグソクムシ
水深150〜600mに生息しますが、ダンゴムシやフナムシと近縁な生き物です。日本近海では最大の等脚目で、西大西洋やメキシコ湾には体長50cmにもなる個体が確認されています。
強烈な磯臭さがあるそうで、姿揚げすることで臭気を軽減させ、提供されます。ただ、身はほとんど詰まっていないらしく、身のふわっとした食感を楽しむ一品だそうです。
不気味な魚も食す
日本の食欲の凄み
本記事は書籍や新聞記事を読みながら書き進めているのですが、深海には大きなナメクジみたいな少し不気味な魚や全体がひだみたいな触手だらけの生き物がいて、どれも食利用されたことがあると書かれています。どの生き物も、一見すると進んで食べようとは思えないのですが、外国人がタコを食べる日本人を気味悪く感じると聞いたことがあるので、どうやらわたしたちには食に対する強い好奇心が太古から受け継がれているようです。
深海はまだまだ未開で、これからも多くの新生物が発見されると期待されます。もしかすると、そうした新発見の深海生物も、数年後にわたしたちの食卓の常連になっているかもしれませんね。
参考文献
・落合芳博(監修)、21世紀の食調査班(編)『食べられる深海魚ガイドブック』自由国民社 2014年
・冨山晋一(2012)「清水港に漂着したアブラボウズ」『東海大学社会教育センターだより 海のはくぶつかん 2012.4 春号』東海大学社会教育センター編集委員会 2012年
・「深海生物ってどんな味? シーパラで提供中の4品 オオグソクムシの姿揚げやヌタウナギ 記者が食レポ」東京新聞2024年1月21日